『アントマン&ワスプ:クアントマニア』北米No.1 シリーズ最高成績も批評家の評価は最低

 2023年の北米映画興行は、やはりマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)で本格的開幕を迎えた。2月17日~19日の週末興行収入ランキングは、『アントマン&ワスプ:クアントマニア』がNo.1。3日間で1億400万ドルというスタートダッシュを見せ、祝日(ワシントン誕生日)にあたる月曜日を含む4日間では、1億1800万~2000万ドルを記録する見込みだ。

 12月公開の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が長らく首位を譲らなかった北米興行は、最近になって『ノック 終末の訪問者』や『マジック・マイク ラストダンス』がNo.1を獲得していたものの、どちらも興収規模はそう大きくなかった。2023年の公開作品で、初登場1億ドルを超えたのは本作が初めてである。

 『アントマン』シリーズの第3作となる『アントマン&ワスプ:クアントマニア』は、厳しい批判を招いたMCUのフェーズ4を抜け、いよいよ新章となるフェーズ5に突入する重要作。『アベンジャーズ』次回作のヴィランである征服者カーン(ジョナサン・メジャース)が初登場し、物語は新たな方向に転がりはじめる。

 そうした背景もあってだろう、MCUとしては中規模のヒットにとどまったシリーズ前2作に比べ、本作は文字通りケタ違いの初動成績となった。第1作『アントマン』(2015年)が5722万ドル、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)の直後という追い風を受けた第2作『アントマン&ワスプ』(2018年)が7581万ドルだったのに対し、今回は1億ドルの大台に乗ったのだ。最終興収が前2作を上回ることもおよそ間違いないだろう。

 しかし、それでも昨年(2022年)の3作品には及ばないのだからMCU人気は凄まじい。『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は1億8133万ドル、『ソー:ラブ&サンダー』は1億4416万ドル、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』は1億8742万ドル(それぞれ3日間)。本作の初動が4日間で1億2000万ドルに乗ったとしても、その差は埋めがたいものがある。

 『アントマン&ワスプ:クアントマニア』は海外市場で1億2130万ドル(3日間)を稼ぎ出し、全世界興行収入は2億3830万ドルに到達済み。4日間の世界興収は3億5730万ドルにのぼるという。しかし海外市場の初動は業界関係者の予想を下回り、特にスーパーヒーロー映画の人気が大きい中国・韓国では想定以下の数字となった。中国での3日間の成績は1920万ドルだが、関係者は3500万~5500万ドルを見込んでいたのである。

 もっとも、中国でMCU映画が劇場公開されたのは『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)以来。検閲ゆえ公開が叶わなかった期間に需要が下がった可能性もあれば、春節(旧正月)向け映画のシーズンが終わり、現地の興行が落ち着いたことも理由として考えられる。また、中国・韓国では『スター・ウォーズ』でさえヒットしにくいほどSF映画の受けが悪い。『アントマン』シリーズの方向転換が、思わぬ形で興行に影響を与えたとも言えそうだ。

 また、北米・海外を問わず重要なトピックが批評家の評価だろう。Rotten Tomatoesでは批評家スコア47%で、これは『エターナルズ』(2020年)に並んでMCU史上最低の数字。観客スコアは84%と高評価、劇場の出口調査に基づくCinemaScoreは「B」評価とまずまずなので、口コミ効果は引き続き期待できる。しかし、スーパーヒーロー映画は公開初週に客足が集中する傾向があるため、今後の推移には一抹の不安もあるのが実情だ。

 もっとも、このようにネガティブな要素をはらみながらも、『アントマン&ワスプ:クアントマニア』はフェーズ5の開幕作としての(少なくとも興行面の)ミッションを達成した。ファン待望の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』(5月3日公開)に、きちんとバトンを繋ぐこともできたと言えよう。今はこれからの展開をじっと見守るほかない。

 そのほか、いまだ第2位を維持する『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は、北米興収6億5845万ドル、世界興収22億4445万ドルを記録。北米では『ジュラシック・ワールド』(2015年)を抜いて歴代9位、世界では以前からの予想通り『タイタニック』(1997年)を抜いて歴代3位となった。ただし今後の再上映がない限り、北米・世界ともにこれ以上の記録更新は難しいとみられている。

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