『舞いあがれ!』第20週は恋愛ミステリーのような趣に 朝ドラだから描けた人間の“揺れ”

『舞いあがれ!』朝ドラだから描けた心の揺れ

 ところがまた、ここへ来て舞は立ち止まり、迷いはじめる。貴司といると安心して、久留美(山下美月)や母・めぐみ(永作博美)には見抜かれているにもかかわらず、言葉にできない。柏木(目黒蓮)との恋がネックになっていたのだ。後先考えずに恋したため、恋が終わったら友達としていられなくなった。それが引っかかって、舞は先に進めなくなっていた。やりたい本能に従ったり、理性で踏みとどまったりすることは、恋に限った話ではない。誰だって、失敗すると臆病になってしまうもので、また同じようなことになったら……と思うと現状維持のほうがマシと考える。そのターンに陥った舞だったが、積極的な史子の出現によって、自分がほんとうに求めていることを確信するに至るのだ。

 例えば、北條が売れることばかり考えている俗物編集者かと思ったら、意外と教養のある編集者であるなど、ひとは一面だけではない。舞が控えめになったり、情熱的になったり、その都度変わってもおかしくない。そういう波がひとにはある。いつだって、心は揺れているのである。誰だって自由に、自分の思ったとおりに生きたいし、そうしていいけれど、それが他者の障害になることもあるし、自分が他者から妨害されることもある。その繰り返しなのである。朝ドラのような長いスパンを書けるドラマだからこそ、人間の揺れを書くことができる。

 ところで、短歌の「本歌取り」が話題になった第20週、貴司が悩みに悩んでついに書いた恋の一首の下の句「一生かけて君を知りたい」は『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系/通称『チェリまほ』)の「黒沢(町田啓太)のことを知っていきたい」の本歌取りだったのか!  と『あさイチ』(NHK総合)でその場面が放送されていて気づいた。やるなー。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
2022年10月3日(月)から 2023年4月1日(土)まで
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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