『舞いあがれ!』ずっと想い合ってきた舞と貴司の20年 一気に溶けた“幼なじみ”の距離感

『舞いあがれ!』舞と貴司の想いが通じ合う

<君が行く 新たな道を 照らすよう 千億の星に 頼んでおいた>

 この歌の裏に“君”を想う溢れんばかりの愛情と心からの賛歌が降り注いでいるのは明らかなのに、舞(福原遥)と貴司(赤楚衛二)が窓越しに幾度も幾度も重ねてきた会話や心の触れ合いはこの上なく特別な時間なのに……。2人はその時間や関係性が変わってしまうことや失くしてしまうことが耐えられず、臆病に、慎重になってしまう。

 貴司は、誰にも明かさずそっとずっと想い続けてきた舞への恋心や、歌集にするためにその存在を自分の中から吐き出してしまうことに違和感を感じ、ずっと恐れていた。言葉にしたら何かが決定的に違ってしまう気がして。

 「短歌は私の命ですから、それ否定されたら生きていかれへん」とは“梅津先生の1番のファン”を自称する歌人の史子(八木莉可子)の言葉だ。そして、貴司も同じ思いで、舞への思いを誰の目にも触れられるところに置くことを避けていたのかもしれない。それが汚されてしまったり、誰かの解釈でこれまで紡いできた2人だけの関係性を規定されてしまう気がして。あるいは、自分の中にもう当たり前にあって、すっかり自分の世界の一部となっているものに、改めて自分から名前をつけるのは難しかったから。

 連続テレビ小説『舞いあがれ!』(NHK総合)の第20週「伝えたい思い」では、史子とリュー北條(川島潤哉)という第三者の介入によって、互いが互いの気持ちを否応なしに強烈に認識することとなった。傍目には“あと一歩”に見えても当人同士には高くて大きな壁を飛び越えていくまでが、実に丁寧にじっくりと描かれる。

 史子は貴司に「先生の灯火になりたい」「明るく照らしたい」と言ったが、それはかつて貴司が舞に送った冒頭の短歌に見られる愛情表現とは全く正反対のスタンスだ。当時、貴司は五島におり、株式会社IWAKURAで働き始めた舞と物理的距離があったのは大前提だが、決して貴司も舞も「自分が相手に何かしてあげたい」と、ある意味衝動的な感情で、ともすれば横柄にもなりかねない考え方をそのまま相手に差し出すことはしない。なぜなら2人は人一倍繊細で、自分のことよりも周りのことを優先する、五島で療養した過去があるからだ。“何かしてあげたい”と他人から積極的に関与されることが本人にとって必ずしも救いになるとは限らないことを、舞と貴司は誰よりも理解している。

 異なる人間だから似ているところも違うところも当然あって、好き嫌いも心惹かれるものも、目指す道も異なる。別々の人生を抱えながら、尊重し合い、ありのままで、ただただ側にいること。それがどれだけ心強く、どんなエールや励ましよりも唯一のお守りになり居場所となってくれるか。縁側で舞と貴司の間に座り「変人に挟まれてる」とどこか嬉しそうに呟いた朝陽(又野暁仁)の姿が思い出される。

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