日本アニメが映画の世界市場を切り崩す? 『すずめの戸締まり』の評価で考える“現在地”

日本アニメは米中の市場支配に一矢報いる存在?

『ONE PIECE FILM RED』©尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

 近年、日本のアニメ映画が海外で大きな興行成績を収める話題も増えてきた。

 2021年には、日本アニメの世界市場は2兆7400億円を記録したという。(※3)牽引役は配信だが、映画館での実績も伸びている。

 世界の映画市場で支配的なのは、ハリウッドと自国に巨大な市場を持つ中国だ。この2カ国が年間の世界興行収入ランクの上位をほぼ占める。だが、例外的にこの2カ国以外で、年間の世界ランクベスト50位以内に入る勢力が3つだけある。

 インド、韓国、そして日本アニメだ。

 2022年は、『ONE PIECE FILM RED』25位、『すずめの戸締まり』38位、『THE FIRST SLAM DUNK』40位、『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』45位がランクイン。インドは『RRR』30位、『K.G.F: Chapter 2(英題)』が45位の2本、韓国からは『犯罪都市 THE ROUNDUP』が39位だ。(※4)

 2022年から2018年の過去5年間でも、上位50本には米中以外ではこの3カ国しか入っていない。

 つまり、日本アニメは、アメリカと中国という世界市場を支配する2カ国に、なんとか一矢報いることができる3勢力の1つというポジションにいる。

 配信市場はもっと群雄割拠な状態だが、その市場においても、日本アニメは有力なジャンルとして認識されているという状況だろう。

 もっとも、「Anime」という英単語はすでに日本製の作品のみならず、日本アニメ風のルックの作品全般を指す単語となっており、Animeで流通している作品全てが日本製というわけではない。グローバルなアニメマーケット(マーチャンダイジングなどを含めた広義のマーケット)は、2030年には56億ドルと今の倍近くの規模に達すると予測する分析もあるが、その中で日本製の作品がどの程度シェアを取れるのか、これから競争は激しくなっていくだろう。(※5)

 そうした市場の競争の中で、国際映画祭で注目されることにも大きな意義があるだろう。有名映画祭で受賞すればそれだけブランド力の強化につながるし、新海誠監督のみならず、他にも優秀な作家がいるのではと世界の映画祭が目を向けるようになるだろう。

 コロナ禍を経て、米中の二極支配が崩れつつある中、日本アニメにも大きなチャンスが来ていることは確かだと思う。インドや韓国などのライバルとともに、世界シェアを増々拡大していってほしいと思うし、映画祭やアカデミー賞などの芸術的評価の場でも一層の活躍を期待したい。

引用・参照

※1:第35回東京国際映画祭 | コンペティション2022 規約 https://www.tiff-jp.net/entry/competition2022/
※2:73rd Berlin International Film Festival – Call for Entry 2023 – Asian Film Festivals https://asianfilmfestivals.com/2022/09/15/berlin-international-film-festival-call-for-entry-2023/
※3:「アニメ産業レポート2022」刊行のお知らせ | 日本動画協会 https://aja.gr.jp/info/2049
※4:2022 Worldwide Box Office - Box Office Mojo https://www.boxofficemojo.com/year/world/2022/
※5:The Worldwide Anime Industry is Expected to Reach $56 Billion by 2030 - ResearchAndMarkets.com | Business Wire https://www.businesswire.com/news/home/20220908005764/en/The-Worldwide-Anime-Industry-is-Expected-to-Reach-56-Billion-by-2030

■公開情報
『すずめの戸締まり』
全国公開中
原作・脚本・監督:新海誠
出演:原菜乃華、松村北斗、深津絵里、染谷将太、伊藤沙莉、花瀬琴音、花澤香菜、松本白鸚
キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:土屋堅一
美術監督:丹治匠
音楽:RADWIMPS、陣内一真
主題歌:「すずめ feat.十明」RADWIMPS
制作:コミックス・ウェーブ・フィルム
制作プロデュース:STORY inc.
配給:東宝
©︎2022「すずめの戸締まり」製作委員会
公式サイト:https://suzume-tojimari-movie.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/suzume_tojimari
公式Instagram:https://www.instagram.com/suzumenotojimari_official/
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