『相棒』が突きつけた社会の“当たり前”への疑問 心に刻みたい「人生は喜びに満ちている」

『相棒』が突きつけた社会の当たり前への疑問

 実はここに大きな秘密が隠されている。綿密な取材を重ね、社会の闇に迫り真実を暴くようなルポルタージュを執筆するのは、屈強そうで何事にも負けない一誠のような男性。希望に満ちた、小中学生に時代を超えて愛される少女向け小説を執筆するのは、周りの人を愛し、慈愛に満ちている美智子のような女性。私たちは、自然にそう考えてしまうことがある。だが、実際は、誠一が少女向け小説を、美智子がルポルタージュを執筆していたのだ。右京はそのことを、ヒロコが誠一に直接ねだって書いてもらったというサイン本と、亡くなった一誠の手に握られていた本のサインから解明した。

 美智子は若い時、出版社に自身の書いたルポを持ち込んだが、偉そうな出版社の社員に「ペン一本で戦うには女には無理だよ」「恋愛やおしゃれをテーマに書いてきたら、女性誌を紹介してあげる」と言われていた。ここまで直接的に言われると腹が立ってしまうが、時代が進んでも、ステレオタイプはなかなかなくならないし、時には気づくことも難しい。今回の『相棒』は、無意識にある思い込みを鮮やかに顕在化させたのではないだろうか。

 誠一は、「この世界は美しく人生は喜びに満ちている」と固く信じていた。だからこそ、今は辛い状況にあるすみれに、小説の本当の作者として励ましを送りたかったのだ。ドラマの中で何度も繰り返される「この世界は美しく人生は喜びに満ちている」という言葉は、力強い『相棒』からのメッセージといえるだろう。

■放送情報
『相棒 season21』
テレビ朝日系にて、毎週水曜21:00~21:54放送
出演:水谷豊、寺脇康文、森口瑤子、鈴木砂羽、川原和久、山中崇史、篠原ゆき子、山西惇、田中隆三、神保悟志、小野了、片桐竜次、杉本哲太、仲間由紀恵、石坂浩二ほか
エグゼクティブプロデューサー:桑田潔
チーフプロデューサー:佐藤凉一
プロデューサー:高野渉、西平敦郎、土田真通
脚本:輿水泰弘ほか
監督:橋本一ほか
音楽:池頼広
制作:テレビ朝日、東映
©テレビ朝日・東映
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/aibou/
公式Twitter:@AibouNow

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