『相棒』が突きつけた社会の“当たり前”への疑問 心に刻みたい「人生は喜びに満ちている」

『相棒』が突きつけた社会の当たり前への疑問

 大切な本の一節や好きな歌の歌詞など、いつの間にか自分の心の支えになっているような言葉はないだろうか。よかったら、2月1日に放送された『相棒 season21』(テレビ朝日系)第15話の、このセリフも追加してほしい。

「この世界は美しく、人生は喜びに満ちている」

 今回、このドラマで伝えたかったことのひとつはこの言葉に集約されている。

 ある日、亀山(寺脇康文)に不審なメールが届く。右京(水谷豊)とともにメールに指定された新宿東公園へ行ってみると、そこには顔馴染みだったゲイバーのママ・ヒロコ(深沢敦)の姿が。サルウィンから帰国したものの、一向に顔を見せない亀山にサプライズを仕掛けたのだという。彼らは和やかな様子で帰ろうとするが、その矢先、同じ公園で男性の遺体を発見する。その男性は鬼塚一誠(本名・大塚誠一/工藤俊作)という著名なルポライターだった。一誠の手には、妻で少女向け小説を手掛ける人気作家のノエル美智子(大島さと子)のデビュー作がなぜか握られており、そこには「すみれさんへ」と個人宛のサインが書かれていた。

 事件に興味を持った右京が調査を開始すると、この「すみれ」とはスーパーのパートとデリバリーの仕事を掛け持ちしながら、子供となんとか生活している女性のことだと判明。確かにすみれは中学生時代、美智子の熱心なファンで、作品に一貫している「この世界は美しく、人生は喜びに満ちている」というメッセージに勇気をもらっていたようだ。

 だが、今のすみれ(智順)の人生は、お世辞にも「喜びに満ちている」とはいえない。仕事を掛け持ちしても生活は苦しく、すみれは美智子がボランティアで参加しているフードバンクの炊き出しにも来ていた。すみれも美智子がその場にいたのなら「あんなメッセージは大嘘でしたよって言ってやればよかったな」と吐き捨てた。日々を生きるだけで精一杯の切実さが痛いほど伝わってくる場面だった。

 ところで、どうして美智子は炊き出しボランティアをしていたのだろう。優しげで人当たりもよく、品のある女性のように見える美智子は、優しいおばさんには見えるが、一誠がルポライターとして、新作の取材のためにボランティアをする方がまだ理解できる。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる