『THE LAST OF US』は新たな地平を拓く? ゲーム版にはなかった俯瞰の視点

『THE LAST OF US』俯瞰の視点

 2013年にアメリカのゲーム開発会社Naughty Dogによって制作されたPlayStation 3専用ゲーム『The Last of Us』はユーザー、メディアの双方から絶大な支持を集め、大ヒットを記録したTVゲーム史上屈指の名作だ。

 人体に寄生する菌によってパンデミックが発生し、世界が崩壊してから20年後。心に傷を抱えた主人公ジョエルと重大な秘密を持った少女エリーがマサチューセッツ州ボストンからワイオミング州ジャクソンまで、アメリカを横断する1年間の旅路が描かれる。2人の道中に立ちはだかるのは、感染によりゾンビとなった人間の成れの果てと、生存者を狙う危険な略奪者たちだ。

 筆者は1年間に1〜2本程度しかゲームソフトを買わない超ライトユーザーで、続編『The Last of Us Part II』がリリースされる2020年になってようやく初めてプレイしたが、その映画的な演出に驚かされた。隅から隅まで探索したくなる荒廃したアメリカのランドスケープと、『ブロークバック・マウンテン』『バベル』でオスカーに輝いたグスターボ・サンタオラヤによる寂しげなギターの音色。物語はアメリカ文学界の巨匠コーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』(ヴィゴ・モーテンセン主演で映画化)の影響も色濃く、ドライな語り口には多くのことを考えずにいられない豊かな行間がある。ストーリー部分を見せるムービーシーンとゲームプレイのテンションはシームレスで、キャラクターが抱くエモーションを共有してプレイにのめり込む体験は、上質なTVシリーズをビンジウォッチする感覚にも近かった。

 本作がリリースされた2013年は『ブレイキング・バッド』『ゲーム・オブ・スローンズ』『ハウス・オブ・ザ・カード』らが居並ぶPeak TVの真っ只中。2023年、『The Last of Us』が大ヒット作を連発するHBOからTVシリーズとしてリリースされるのは必然と言えるだろう。

 しかし、ゲームの映像化といえば、すぐには成功作が思いつかない鬼門中の鬼門。スタッフ、キャストは人気作の映像化にふさわしい充実の布陣が敷かれている。1986年に起こったチェルノブイリ原発事故をさながらホラーのように描いたTVシリーズ『チェルノブイリ』のクレイグ・メイジンがショーランナーを務め、原作ゲームのクリエイター、ニール・ドラックマンがエピソード監督として参加。この他、スウェーデン製の異色ダークファンタジー『ボーダー 二つの世界』のアリ・アッバシや、アカデミー賞にノミネートされた戦争映画『アイダよ、何処へ?』のヤスミラ・ジュバニッチが抜擢されるなど、監督陣はユニークな人選だ。出演はジョエル役にペドロ・パスカル、エリー役にベラ・ラムジーら“ゲースロ出身組”を筆頭に、『マインドハンター』で犯罪心理学者をクールに演じたアナ・トーヴ、『ホワイト・ロータス / 諸事情だらけのリゾートホテル』シーズン1でエミー賞に輝いたマレー・バートレット、名優ニック・オファーマンら演技巧者ばかりが揃えられている。

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