『ホワイト・ノイズ』の難解な内容を解説 ノア・バームバック監督が示した“恐ろしい事実”

『ホワイト・ノイズ』の難解な内容を解説

 例年の通りNetflixが、『バルド、偽りの記録と一握りの真実』、『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』、アメリカで1週間限定公開された『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』など、賞レースの時期に、続けて芸術性や話題性の高い作品を映画館で公開、配信をしている。その一つに数えられる映画作品が、ノア・バームバック監督、アダム・ドライバー主演という、『マリッジ・ストーリー』(2019年)のコンビがおくる、『ホワイト・ノイズ』である。

 ノア・バームバック監督といえば、自身の人生の実感を反映したオリジナル脚本を多数書いているが、今回はドン・デリーロが1985年に書いた原作小説に基づいた物語を脚色している。デリーロといえば、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『コズモポリス』の原作者でもある。つまり、本作も『コズモポリス』同様、かなり難解な部分のある仕上がりになっているのだ。

 本作の鑑賞者のなかには、あまり見たことのない不思議な構成や、謎めいた要素の数々に面食らう人も多いかもしれない。しかし、ポイントを押さえていれば、描かれるシーンの数々が、かなり納得できるものに感じられるはずである。ここでは、そんな複雑な面のある『ホワイト・ノイズ』の内容を解説し、それが示すことになった、恐ろしい事実について語っていきたい。

 主人公は、アメリカの大学教授ジャック(アダム・ドライバー)。ナチスドイツの指導者アドルフ・ヒトラーの人間性や、ファシズムに熱狂する群衆心理を専門とし、1980年代アメリカでヒトラー研究の権威として知られている。そんなジャックは、再婚相手のバベット(グレタ・ガーウィグ)や、前妻・前夫との間の子どもたち、二人の間の子どもとともに、賑やかな家庭を築いていた。子どもたちは、煙草や食品添加物の危険性を親たちに指摘し、夫婦関係のあり方を親にレクチャーしたり、母親であるバベットの異様な行動を報告するなど、知的好奇心が旺盛だ。

 ある日、家からそれほど遠くない線路で貨物列車に車両が激突し、列車が横倒しになるという大事故が起こる。列車が運んでいた危険な化学物質が流出し、それが巨大な雲となって地域全体を汚染し始めた。アナウンスによる避難勧告に従い、ジャックら家族も自家用車で町を後にするが、その過程で家族は危険な試練に遭い、奇妙な体験を味わうこととなる。

 一見、エピソードの一つひとつは散漫に感じられるが、ジャックの研究対象である“群集心理”が、それらを結ぶポイントとなる。群衆、大衆の愚かしさや社会への悪影響を説いていたジャックだが、化学物質流出事故によってパニックになる家族とともに、結局はわれ先に逃げようとする群衆のなかに混じり、周りの人々と同じ行動をとってしまうというのが、皮肉な部分だ。

 本作において、何度も暗示され、語られるのが“死への不安”である。グレタ・ガーウィグ演じるバベットが、死に対する不安を打ち明けるように、人は自分がいつか死ぬことを知っていて、そのことに多かれ少なかれ恐怖を感じているはずだ。

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