現代的マーダーミステリーの決定版 『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』のすごさに迫る

『ナイブズ・アウト』続編のすごさに迫る

 好評を博した、ライアン・ジョンソン監督、ダニエル・クレイグ主演のミステリー映画『ナイブズ・アウト』(2019年)の続編である『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』は、前作をもはるかに超えた、現代的なマーダーミステリーの決定版となった。

 『ナイブズ・アウト』が、他にはない映画作品となり得ているのは、アガサ・クリスティ原作のオールスターキャスト映画のような、豪華な俳優が次々に出演する作品でありながら、「ネトウヨのクズ(alt right troll dipshit)」などと呼ばれる登場人物に代表されるように、古風なマーダーミステリーの形態でありながら、それに逆行するような現代社会の要素をさまざまに投影しているからだ。

 本作『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』は、その傾向がさらに強まり、まさに現代そのものを見事に映し出す内容となっている。そして、ここで描かれるのは、本作の言葉を借りると「金持ちクソヤロー(rich-asshole)」たちの傲慢な姿である。そんな本作のすごさに、ここでは迫ってみたい。

 ナターシャ・リオンや、チェロ奏者のヨーヨー・マ、ジョセフ・ゴードン=レヴィットら、他多数のカメオ出演を含め、多くの有名出演者が登場する本作。そのなかでエドワード・ノートン、ジャネール・モネイ、デイヴ・バウティスタ、ケイト・ハドソンなどのキャストが、物語の根幹に絡むリッチな仲間たちを演じている。

 なかでもエドワード・ノートンが演じる、ハイテク企業の社長マイルズ・ブロンは圧倒的な大富豪である。仲間たちをギリシャの孤島に築き上げた邸宅に招待し、ミステリーパーティーを開催するほどの資金力を有しているのだ。その邸宅は、ガラスで建造された巨大なタマネギ状のドームをシンボルとした、ハイテク技術と世界的に貴重なアート作品などに彩られるモダンな建築物であり、映画『007』シリーズに登場する悪役の秘密基地のようでもある。

 そんな島に、ジェームズ・ボンド役を引退したばかりのダニエル・クレイグが演じる、“世界一の名探偵”ブノワ・ブランが降り立ち、入り組んだ事件を解決していく。エキゾチックなオーケストレーションや、ケレン味ある大げさな撮影も、『007』映画のような印象を醸し出しているように感じられるところだ。

 注目したいのは、やはり大富豪マイルズ・ブロンのキャラクターである。自分や仲間たちを「創造的破壊者(distruptors)」と呼び、傲慢な態度で財力を見せびらかし、ナルシスティックに世界を変革すると豪語する姿は、近年のカリスマ的な大富豪像そのものである。面白いのは、世界的なSNSサービスを提供するTwitter, Inc.のオーナーとなった、大富豪イーロン・マスクの支持者たちの一部が、このエドワード・ノートンが間抜けに演じているキャラクターについて、マスク氏を揶揄していると非難しているという事実だ。

 だが、業界誌「バラエティ」によると、ライアン・ジョンソン監督自身は、本作のアイデアはイーロン・マスクが大きな注目を集める以前に考えられたもので、直接の関係はないと述べているという。(※)つまり、イーロン・マスクの支持者たちは、勝手にこのキャラクターにマスク氏のイメージを見出し、怒っていたことになるのだ。

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