『関心領域』が2024年の重要作となった理由 A24が描く“戦争映画”の新たな地平
喋る死体のおならで無人島から脱出するエキセントリックなストーリー(『スイス・アーミー・マン』)から、ちぐはぐにすれ違う母と息子のヒューマンドラマまで(『僕らの世界が交わるまで』)、幅広いジャンルを取り扱うことで知られる映画スタジオ・A24。彼らが輩出してきた作品が、「スタジオA24特集」として現在WOWOWで配信中である。
時には『WAVES/ウェイブス』のような、音楽と映像、大胆であり繊細なカメラワークで新しいタイプの映画を生み出してしまうほど、このスタジオの手がける作品のクリエイティビティの高さは計り知れない。2024年には『パスト ライブス/再会』がアカデミー賞にノミネートされたことで脚光を浴びた。しかしもう一作、アカデミー賞で大きく注目されたA24作品がある。ジョナサン・グレイザー監督の『関心領域』だ。
A24が描く“戦争映画”の新たな地平
『関心領域』は、アウシュヴィッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を指す「The Zone of Interest(関心領域)」がタイトルになっているように、ホロコースト、そしてその根底にある第二次世界大戦といった戦争をテーマにした作品である。
本作が発表された当時、あのA24が戦争映画を作ることに対して新鮮さを覚えた方も少なくないだろう。2012年に設立されたスタジオの歴史はまだ浅く、初期は『スプリング・ブレイカーズ』や『ブリングリング』といったインディー作品や『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』、『エクス・マキナ』などのSFスリラー、はたまた『ライフ・アフター・ベス』や『Mr.タスク』、『ロブスター』のような奇天烈な設定の作品が主だった。また、『ウィッチ』にはじまる“A24ホラー”も、『ヘレディタリー/継承』のヒットを受けて近年ますます注目を集めている。そんな中で“ストレートな戦争映画”は、2024年公開の『シビル・ウォー アメリカ最後の日』くらいなもので、やはり本スタジオの中では珍しいジャンルであることに違いない。しかし、意外と初期からユニークな視点で“戦争”について考える物語は存在していた。
例えば、『ジンジャーの朝 ~さよなら、わたしが愛した世界』。設立の翌年に発表された、いわば最初のA24映画の一つである本作は、1960年代の冷戦下のロンドンを舞台に反核の思想が膨らんでいく少女の繊細な青春を映す。エル・ファニング演じる主人公ジンジャーが抱く戦争によって世界が終わってしまうことへの恐怖が、彼女の半径5メートルの日常の崩壊とリンクして描かれる本作は、兵隊たちが戦地で銃を向け合うような戦争映画とは違う視点で戦争を見つめている。
また、ホロコーストを題材にした作品も『関心領域』が初めてではない。2015年の『手紙は憶えている』では、アウシュヴィッツ強制収容所から生還した90歳の主人公が、自分の家族を殺したナチスの兵士に関する情報を受け取り、今も平然と生きている彼に復讐を決意する物語。兵士の名前が記された手紙と、自身の微かな記憶を頼りに老人が犯人を単身で探すストーリーは斬新である。
友情や恋、家族や恐怖そのものも常にユニークな視点で描き続けてきたA24スタジオ作品。『関心領域』もこの例に漏れず、かなり独特な作品であることはもうこの時点で容易に想像できるだろう。