髙橋昌志×石黒賢対談 “魂”を刻んだ『狼 ラストスタントマン』に懸けた情熱
撮影素材がフィルムからデジタルへと移り変わったことが象徴的なように、年月とともに映画の技術は日々進化し、変化してきた。50年前はもちろん、10年前ですら、現在からすれば“古い”と思う映像も少なくない。しかし、すべてが最新の技術となりデジタルになればなんでもできるというわけではない。映画・ドラマを作り続けてきた先人たちの魂は、“人”でしか受け継ぐことはできない。そんな絶対に失われてはならない、ひとりの映画人の魂が刻まれたのが映画『狼 ラストスタントマン』だ。
文字通り命をかけて己の肉体、または乗り物を自在に操り、陸海空で華麗なアクションを魅せ続けてきたスタントマン・髙橋昌志。『狼 ラストスタントマン』は、髙橋の俳優デビュー作であり、彼自身の生き様を切り取った一作となっている。本作にも重要な役柄で出演し、髙橋とは学生時代からの知り合いという石黒賢を交え、本作に込めた思い、髙橋のスタント人生の軌跡に迫った。
クランクインの日に撮影されたラストシーン
――髙橋さんと石黒さんは中学生時代からの知り合いだそうで。
石黒賢(以下、石黒):(髙橋)昌志さんとは、隣同士の学校だったんですよ。で、有名なバイク乗りのすごいヤツがいると噂になっていて(笑)。それが昌志さんだったんです。
髙橋昌志(以下、髙橋):(笑)。僕も、(石黒)賢ちゃんはテニスプレイヤーとして有名だったので名前は知っていて、共通の友達も多かったので、当時からいろんな話は聞いていました。
石黒:そして再会を果たしたのが、連続ドラマの撮影現場で。役者としてデビューしてまだ1~2年目の頃だったと思います。僕が不良軍団にバイクで囲まれて、その中の1台がウィリーして、僕の鼻先で前輪を止めるというシーンがあったんです。台本を読んでいて、これはとんでもないシーンだと思って現場に行ったら、そこにいたのが昌志さん。「あぁ!!」って(笑)。
髙橋:そうそう(笑)。その後も、現場で一緒になったり、賢ちゃんのスタントとして僕が入る機会もありました。
――では、本作は満を持しての“役者”としての共演になったんですね。
髙橋:賢ちゃんは本当に優しいし、僕の思いもわかってくれるし、お芝居の部分でもきっと助けてくれるだろうと。
石黒:お話をいただいたときは感慨深かったです。この現場は久々の再会だったのですが、前に会ったときよりかなり身体を絞っていて……。あのとき何キロぐらい落としてたの?
髙橋:7キロぐらい。
石黒:びっくりしましたよ。役への向き合い方が完全に役者で。僕たちも役のためにいろいろと自分を変えていきますが、決して死にはしない。でも、スタントは常に生死がかかっている。それを日頃から行っているからこそ、本作に臨む昌志さんの役者としての姿勢は素晴らしかったです。昌志さんは監督がリクエストされているスタントの2段階以上、上のスタントを本番でやってのける人。それが役者としての芝居にも表れていたと思います。存在感がありました。髙橋昌志による、髙橋昌志のための、髙橋昌志の映画です。
――ラストシーンのお話が出ましたが、プレスによるとあの壮大なスタントシーンがクランクインだったそうで。役者として初めて臨む現場の一番最初がクライマックスのシーンというのは髙橋さんとしては難しかったのでは?
髙橋:それがそうでもなくて。僕としてもあのシーンは本当に恐いシーンだったので、ちょっと芝居をして、最後に待っている……という流れだったらとてもじゃないですけどできなかったですね。何年もスタントの仕事をやってきましたけど、どんなスタントでも手に汗握って眠れない日もあるぐらいで。だから、もしラストシーンが後回しだったら、この現場でもずっと寝られないことになってた……。
石黒:先にやらしてくれと(笑)。でも、その言葉どおり、あのシーンを撮ったあとはリラックスしていましたよね。
(インタビューに同席していた六車俊治監督も参加)
六車:いろんな作品に携わってきましたが、本当のラストシーンを一番最初に撮るというのはなかったですね。昌志さんでなければ普通はやらないですよ。
一同:(笑)。
――髙橋さんの人生が刻まれているような、とてもカッコいいシーンでした。
髙橋:うれしいです。ただ、演技をしたというよりも、今までと同じように真剣にスタントに挑んでいただけでもあって。命を落とすかもしれないという恐怖と隣合わせなのですが、その気持ちのままスタートすると絶対に失敗してしまうんです。だから、スタートするときは一度真っ白になって臨まないといけない。その一瞬を監督が切り取ってくださったという感じですね。この作品では、今までにやったことのないスタントを絶対成功させるという思いでした。
石黒:残念ながら僕は現場で見ることができなかったのですが、撮影が終わったと連絡を受けて、まずは昌志さんに何も起きなくてよかったというのが最初の気持ちでした。本当に死んでしまう可能性もあると聞いていたので……。ただ、昌志さんもそう思っているだろうから言うけど、もっとできたんじゃないかという思いも映像を観た後ではあって。だから、「ラストスタントマン」って言っているけど、絶対にこれでは終わらないだろうなと(笑)。
髙橋:どんなスタントも満足することはないからね。この日も監督にもう一回やらせてほしいと言ったんですけどね(笑)。
六車:勘弁してくださいと(笑)。