髙橋昌志×石黒賢対談 “魂”を刻んだ『狼 ラストスタントマン』に懸けた情熱

髙橋昌志×石黒賢が語る“リアル”への思い

CGでは表現できない“リアル”

――劇中のセリフの中ですごく印象的だったのが、「本能がやめろと言うならやめろ、行けと言うなら行け」。これは髙橋さんご自身の人生で培ってきた心得だと思うのですが、実際のところは?

髙橋:まさにこの言葉どおりで。実際に、ロール・オーバーというジャンプ台からひっくり返るスタントの撮影の際、途中で急ブレーキをかけたことがあるんです。そのときは何か本能的に感じとったのですが、実際にジャンプ台を組み直してもらって、テストしていたら元々の設置場所だと絶対に事故が起きるような状態で。あのまま突き進んでいたら大怪我どころでは済まないものになっていました。そういった直感が働いたことは何度もあるんですよね。

石黒:まさに昌志さんの本能だね。

髙橋昌志

――肌で感じ取る、特殊能力のようなものですね。

髙橋:言葉では説明できないですよ。だから、僕も若い子たちから、「どうやるんですか?」と聞かれても教えることができないんです。本番前までは、何度も何度もイメージトレーニングして、あそこでアクセル、あそこでハンドルを切るとか異常なほどに細かく考えていくのですが、スタートしてしまうと全然覚えていなくて、終わった後もいつも記憶にまったくなくて。

石黒:そうなんですね!

髙橋:だから教えることができません(笑)。

石黒賢

――石黒さんも演技をされてきた中で、髙橋さんのような“無我の境地”状態になったことはありましたか?

石黒:昌志さんのように生死の境目で演技をすることはほぼないので、同じとは言えないと思うのですが、近いものはありますね。最大の準備をして、いろんなパターンを考えて芝居に臨むのですが、本当にいい芝居ができているときって、準備してきたものを全部忘れているときなんですよね。「うまく表情が作れた」「いい感じでセリフが言えた」なんて撮影後に思っているときは、たいていまったくよくない出来栄えで。独りよがりの鼻につく、いわゆるクサい芝居になってる。本当にいい芝居のときは、スポーツでいうゾーン状態のような、心は熱く頭は冷静なような、自分を俯瞰で見えているような状態のときですね。だから、昌志さんの気持ちとも近しいものはあるのかなと感じました。

髙橋:うんうん。

――この作品のテーマの一つにもなっていますが、さまざまな技術の発達によって失われていくものがあります。CGで代替できたとしても、それでもスタントが求められ続ける理由とはなんでしょうか?

髙橋:端的に言うと、CGはあくまでもCGで、そこには気持ちがないですよね。やっぱり人間がやることによってそこに魂が入る。もちろん、CGを排除すればいいということではなくて、大事なのはバランスだと思うんです。極端な話、安全面などを考えたらスタントは必要ないかもしれません。でも、観客の方々も間違いなくそれがCGなのか、生身の人間なのか、本能的に感じ取るものがあると思うんですよね。

石黒:現場の役者に与える影響も大違いですからね。一緒に仕事をした作品では、昌志さんがスタントをする際は、自分のシーンがなくても行けるときは観に行っていたんです。その場で生まれた空気を感じて、それが自分の芝居にも反映できるから。直接的にどんな影響があったかを言葉にするのは難しいのですが、その場の空気感ってカメラは正直だからそのまま画面に映るんですよ。これは単にノスタルジーでもなんでもなく、CGでは映らず、生身の人間だからこそ映るものが確実にある。そしてそれを観客の皆様も受け取ってくれる。スタントだけでなく、役者もすべてCGでも可能になるかもしれないけど、生身でしか表現できないものがある限り、僕たちはずっとやり続けるべきだと思っています。

――一方、スタントマンの育成というのも今後大きな課題になっていくかと思います。その点については?

髙橋:本当に難しい問題で。初歩的な部分は教えることができるのですが、キャスト・スタッフに直接的な影響が起きうるもの、生死がつきまとうものはなかなか任せることができない。この映画で僕が演じた役柄そのままなのですが、万が一が起きたとき、その責任を負える勇気が僕にはなかなかなくて……。本当に難しいところなんですよね。

六車:昌志さん自身も先輩たちから「教えられた」というより、背中を見て、自分で動きを盗んでいった感じですよね。スタントはバイクをはじめとしたいろんな乗り物に乗らないといけなくて、お金もかかって、怪我もして、しかも痛いときに痛いとは言えない、ものすごく大変な仕事なわけです。だから昌志さんがそうだったように、自分で盗む気持ちがある若者がいないとなかなか育たないとは思います。だからこそ、本作の昌志さんを観た若者の中からスタントマンになりたい、もっとこうしたいと思う若者が少しでも出てきてくれればこの映画は成功だと思っているんです。

(左から)髙橋昌志、石黒賢

髙橋:ありがとうございます。少しでもそう思ってくれる方がいたら最高ですし、多くの方に観ていただいて、ああじゃないこうじゃないと議論していただきたいですね。いろんな感想が聞きたいです。

石黒:監督もおっしゃったように、スタントマンになりたいと思う人が出てくれたらうれしいし、映画作りって楽しそうだなぁって感じてほしいですね。

(左から)髙橋昌志、石黒賢

■イベント情報
『狼 ラストスタントマン』舞台挨拶
日時:12月24日(土)14:35〜の回
会場:新宿武蔵野館 スクリーン1
登壇者:石黒賢、石田卓也、髙橋昌志、藤澤志帆、六車俊治監督

■公開情報
『狼 ラストスタントマン』
12月23日(金)より、新宿武蔵野館にてロードショー
出演:南翔太、髙橋昌志、石田卓也、池上季実子(友情出演)、粟野如月、藤澤志帆、丸りおな、倉田昭二、安田龍生、石黒賢
監督・脚本:六車俊治
プロデューサー:髙橋昌志、六車俊治
音楽:谷地村啓
配給:武蔵野エンタテインメント株式会社
製作:「狼 ラストスタントマン」製作委員会(シールズ/六歌仙フィルムス)
2022/カラー/日本/86分/ビスタサイズ/G
©2022「狼 ラストスタントマン」製作委員会
公式サイト:lonewolf-movie.com
公式Twitter:@wolf_laststunt

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