『作りたい女と食べたい女』脚本・山田由梨の稀有な才能 “リアル”を掘り下げる眼差し

『作りたい女と食べたい女』山田由梨の作家性

 制作統括の大塚安希が、ドラマの企画が通る前から、山田に脚本を依頼しようと心に決めていたという本作では、レズビアンであることを少しずつ自覚していく主人公が描かれる。その決め手となったのも、『17.3』でのタブー視されやすい性に関する表現や会話のやりとりや『30までにとうるさくて』で登場したリアルな生活感のあるレズビアンのカップルの描写だったようだ。(※1)

 贅沢貧乏の『みんなよるがこわい』『ハワイユー』『フィクション・シティー』『わかろうとはおもっているけど』『ミクスチュア』などの近作でも発揮されている、最大限、当事者視点を得るために努力を重ねてきた結果が、NHKでのドラマ全話の脚本担当につながっているだろう。

『作りたい女と食べたい女』

 ところで、ドラマ『作りたい女と食べたい女』は何よりもキャスティングが秀逸だったことに触れておきたい。料理が好きな女性「野本さん」を演じた比嘉愛未のピッタリ感もさることながら、本作が初の演技経験となったミュージシャン西野恵未による、食べることが好きな女性「春日さん」の実在感が凄かった。春日さんのキャスティングに難航した山田と大塚が、たまたま行ったライブで「発見」したというエピソードからして奇跡的とも言える出演だが、それも、日々、様々な人と会い、話を聴く機会を多くもってこそだろう。そして、森田望智が演じるドラマオリジナルのキャラクター佐山さんも素晴らしい。朝ドラ『おかえりモネ』(NHK総合)に通じる、サバサバしたキャリアウーマンであるが、彼女が中間に居るからこそ、野本さんの会社における立ち位置が際立ち、本音を出せる数少ない存在となっている。原作マンガでは、顔が隠された同僚男性を蛙亭の中野周平が演じているのも絶妙だ。彼自身に偏った思考があるのは前提として、好漢に見える彼が置かれる環境自体の問題をも想像させられた。

 また、性的指向の揺らぎや生理についてなど、他のドラマではなかなか扱わないテーマを真正面から丁寧に描く本作において、意義深い描写が数多くある。そして、この世に実在しているそうした人物を、多くの人が目にするNHKのドラマという場で表象したことにも多大な意義がある。そうした人を、特別な存在ではなく、当たり前の存在として描いたドラマということも含めて。

『作りたい女と食べたい女』

 また、食事を作ることにも大量に食べることにも関心があまりない山田が、こうしたキャラクターをリアルに描くことができたのは、原作があったとはいえ、考証に入った2人の専門家をはじめ大量の資料文献を読み込んだ結果であろう。(※2)山田であれば、どのような社会問題を抱えた人々でも書けるかもしれないと思わされるには十分な連続ドラマ3作であった。

 一つ一つの作品に丁寧に向き合い、実績を積み重ねているさまを見ても、山田が朝ドラの脚本を担当する日も、そう遠くないだろう。同時に、日本だけで収まる器でないことも事実で、既に中国やフランスでの上演を実現し、来年にはニューヨークでのリーディング公演まで予定されているようだ。演劇もドラマも、それ以外の表現も、山田のこれからが楽しみでならない。

参照

※1. https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0029/topic096.html
※2. https://spinear.com/shows/our-sleepover/episodes/2022-12-09/

■放送情報
夜ドラ『作りたい女と食べたい女』
NHK総合にて、毎週月曜〜木曜22:45~23:00 (全10話)
※全エピソードをNHKプラスでも配信
出演:比嘉愛未、西野恵未、森田望智、中野周平(蛙亭)、野添義弘ほか
原作:ゆざきさかおみ
脚本:山田由梨
音楽:伊藤ゴロー
制作統括:坂部康二(NHKエンタープライズ)、大塚安希(MMJ)、勝田夏子(NHK)
制作:NHKエンタープライズ
制作・著作:NHK、MMJ
写真提供=NHK

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