2022年最高のダークホース 『キャシアン・アンドー』に込められた強いメッセージ
人々はいかにして圧政に対抗するのか? 『ローグ・ワン』にも登場したソウ・ゲレラら武装抵抗勢力は大同小異にこだわって分裂し、政界と反乱組織の接近を模索する謎の男ルーセン(ハリウッド進出後最高の演技を見せるステラン・スカルスガルド)は狂信的とも言うべき信念で大義のためなら仲間の命を見捨てることも厭わない。共和国と帝国、正義と悪、光と闇という2つの面が混在する『スター・ウォーズ』の主題が変奏され、その間を駆け抜けるのがキャシアン・アンドーだ。彼はなりゆきからルーセンと出会い、金で誘われて反乱活動に携わっていく。物語は彼自身のドラマよりも、真性の抵抗者であるキャシアンを媒介に反逆の火を灯されていく人々を描く。彼らの原動力は“言葉”だ。『キャシアン・アンドー』は脚本家主導の作品の多くがそうであるように、素晴らしいダイアログに彩られており、キャシアンが出会ったゲリラの青年ネミックは自由へのマニフェストなるものをしたため、銀河のあちらこちらではアナキズム精神を持った者たちが言葉で人々を奮起させていく。
しかし、キャシアン自身は抵抗者であることに無自覚的である。最も象徴的なのが往年の名作『パピヨン』を彷彿とさせるシーズン中盤だ。スティーヴ・マックイーン扮するパピヨンは絶海の孤島にある刑務所から海に飛び込み、自由を獲得し、体制に勝利する。『キャシアン・アンドー』では最も人々を鼓舞した勇ましい者が海に飛び込むことを躊躇し、方やキャシアンは自らの意志とは関係なく、押されるがまま海に落ちていく。彼の強さは状況に後押しされたもので、未だ自身が銀河の命運を変える“火花”であることを知らないのだ。
では、そんな反逆者たちを1つにまとめるのは誰なのか? 本作のもう1人の主人公が銀河の首都コルサントで活動するリベラル政治家モン・モスマだ。彼女こそがシリーズ『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』に初登場した後の反乱同盟軍の指導者であり、帝国打倒後は新共和国の初代議長を務めた人物である。ルーセンを通じて反乱活動に資金提供する彼女の動向が本シリーズのもう1つのメインプロットとなっており、2005年の『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』以来同役を演じてきたジュネヴィーヴ・オーライリーは17年目にして演技的見せ場を得た。第8〜10話の脚本を手掛けるボー・ウィリモンはアメリカ政界を描いた傑作ドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』のショーランナーで、打ち切りに終わったシリーズの雪辱と言わんばかりにコルサントパートは実に筆がノッている。この国ではしばしば忘れられがちだが、政治とは言葉だ。シーズン2では彼女が反乱同盟軍を結束させていく様が物語の重要な展開となるだろう。
幾度目かのビッグウェーヴを迎えたPeakTVにおいて『キャシアン・アンドー』は2022年最高のダークホースだ。現在(いま)を生きる私たちを奮い立たせる強いメッセージが込められ、ディエゴ・ルナの繊細なパフォーマンスはキャシアン・アンドーと『ローグ・ワン』、そして『スター・ウォーズ』ユニバースの陰影をより深めている。粘り強いストーリーテリングは本作オリジナルの登場人物に愛着を抱かせ、しかしそのほとんどは『ローグ・ワン』に登場しない。数年間の出来事を描き、『ローグ・ワン』へのミッシングリンクを繋ぐと言われているシーズン2はどうやら『ベター・コール・ソウル』級のサスペンスをはらむ事になりそうだ。リリース予定は2024年、『キャシアン・アンドー』は堂々たる本命として帰還する。
■配信情報
『キャシアン・アンドー』
ディズニープラスにて独占配信中
©︎2022 Lucasfilm Ltd.