『鎌倉殿の13人』は“死”ではなく“生”を描く 北条政子によって塞がれた英雄の道

『鎌倉殿の13人』は死ではなく生を描く

 だが、伊豆の片田舎の小さな豪族の次男坊だった自分の名前を上皇が口にし、討伐のために挙兵したことで平清盛(松平健)、源義経(菅田将暉)、源頼朝(大泉洋)と自分が並んだことを誇らしく思い「面白き人生でございました」と語る義時の姿を見ていると「死ぬことで英雄となりたい」と望んでいるようにも見える。

 見方を変えれば、それはとても自分勝手な振る舞いだ。だからこそ政子は「カッコいいままでは終わらせません」と言い、この戦いは西(朝廷)と坂東武者の戦いであると、御家人たちの前で、最初で最後の大演説をおこなう。政子の言葉に心を動かされ、御家人たちが戦う決意をする場面を見て、義時は涙を流す。妹の実衣を助けるために尼将軍になった時と同じように、弟の義時を助けるために、政子は後鳥羽上皇と義時の問題を「朝廷VS鎌倉」に拡大したとも言える。その意味で権力の私物化と言えないこともないのだが「家族を守りたい」という個人の思いを隠さなかったからこそ、同じように家族を守りたいと考える御家人たちの心にも響いたのだ。

 皮肉なことにそういった権力の私物化を誰より嫌ったのが義時だった。その意味で彼は一番憎んでいたものに守られたとも言える。だがそれは救いと言えるのだろうか?

 『新選組!』『真田丸』といった過去に手掛けた大河ドラマで三谷幸喜が描いたのは「甘美な敗北」であり、死ぬことで英雄となった男たちの物語だった。そして義時も、死ぬことで英雄になろうとしたが、その道は政子によって塞がれてしまう。

 義時を憎む御家人たちに対して「彼はそれだけのことをしてきた」と政子は語る。この台詞は、死では償えないほど、義時の罪は重いのだと言っているようにも聞こえる。何よりこの場面には、自己犠牲としての「死」を美しいものとして描いてきた三谷の自己批判も込められている。

 この47回を最終回直前に配置したことで「甘美な敗北」という「死」ではなく、「苦い勝利」という「生」を描く『鎌倉殿の13人』のテーマは、より深まったと言えよう。

脚本家・三谷幸喜の真髄がここに 『鎌倉殿の13人』特集

作品のタイトル、および主演・小栗旬が発表されたのは2020年の1月8日。歴代の大河ドラマの中でも人気作である『新選組!』『真田丸…

■放送情報
『鎌倉殿の13人』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK

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