山本千尋が『鎌倉殿の13人』で得た役者としての在り方 「トウはお守りのような存在に」

山本千尋、『鎌倉殿』トウを演じ終えて

 三谷幸喜の研ぎすまれた脚本に、演出をはじめとしたスタッフ陣の優れたチームワーク、そしてそれに応える役者陣の好演によって、毎週目が離せない物語となっているNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。主人公・北条義時を演じる小栗旬を中心に、主演クラスの役者陣が入れ代わり立ち代わり物語を支えてきた。そんな本作の中において、限られた出演シーンながら視聴者に強烈な印象を残した俳優がいる。暗殺者・トウを演じた山本千尋だ。

 山本はAmazon Originalドラマシリーズ『誰かが、見ている』に続いての三谷組への参加。『ウルトラマンジード』(テレビ東京系)をはじめ、“アクション女優”として圧倒的存在感を放ってきた山本だったが、『誰かが、見ている』ではそのアクションを封印し、父役・佐藤二朗とのセッションで見事なコメディエンヌの才能を発揮した。その活躍が認められたのだろう、三谷は『鎌倉殿の13人』で山本にこれ以上ないほどの適役を用意した。そんな高い期待値に山本は一体どう応えていたのか。『鎌倉殿の13人』を終えて山本は何を思うのか。【インタビューの最後には、サイン入りチェキプレゼント企画あり】

梶原善から受け継いだ魂

ーー『鎌倉殿の13人』も最終回まで残りわずかとなりました。毎週、視聴者の実況もすごい盛り上がりをみせています。

山本千尋(以下、山本):事前に完パケ(完成した映像データ)をいただいているんですが、私も毎週リアルタイムで観ています。「#鎌倉殿の13人」を調べるのも本当に楽しくて。みなさんの感想や考察に驚かされますし、本当に多くの方にご覧いただけているんだなと実感しています。

――山本さんが演じる暗殺者・トウは、視聴者の中でも屈指の人気キャラクターとなっています。

山本:トウの師匠である、梶原善さん演じる善児がすごく人気があって、私はその土台をそのままいただいたような感じです。梶原さんの素晴らしいお芝居と、三谷さんの素晴らしいアイデアによって生まれたキャラクターなので、本当に恵まれていたとしか言いようがありません。

――三谷さんが脚本・演出を手掛けた『誰かが、見ている』では、山本さんは得意のアクションを封じられるような形でした。その反動からなのか、今回はアクション全開の役柄で。だからこそプレッシャーもあったのでは?

山本:『誰かが、見ている』の際に、「せっかくアクションが出来る女優さんなのに、全くなくてごめんね」と三谷さんから声をかけていただいたんです。そして、今回の役。本当にうれしくて。やっぱり、“大河ドラマ”は特別で、家族や親戚もとんでもなく喜んでくれるんですよ。自分がどれだけ出演したいと思ってもそれが叶うことの方が少ないこの世界の中で、このような素敵な役をいただけたこと、改めて振り返っても夢のようなことだったと思います。今後もこの仕事を続けていく上でも、トウという役は自分のお守りのような存在になっていくと感じています。

――源頼朝(大泉洋)、源義経(菅田将暉)など、三谷さんの新たな人物解釈が面白さにつながっている『鎌倉殿の13人』ですが、意外にもオリジナルキャラクターは少ないです。そんな中で、トウは数少ない完全オリジナルのキャラクターで。

山本:本当にありがたい限りです。三谷さんも「歴史考証の先生からダメ出しされない楽しんでるキャラクター」とお話されていたんです。せっかく楽しんで生み出してくださったキャラクターなんだから、私も楽しまないと意味はないなって。初めての大河でアクションもあって、プレッシャーは感じていたのですが、「とことん楽しんじゃえ!」とスイッチを入れることができました。

――頼朝や政子(小池栄子)は今後も誰かが演じると思うのですが、トウというキャラクターは『鎌倉殿の13人』だけ。山本さんだけのキャラクターになりました。

山本:本当に宝物です。演じていても本当に実在していたんじゃないかと思うぐらいのディティールを書いてくださっていて。三谷さん、プロデューサーの清水(拓哉)さんをはじめ、スタッフの皆さんが長年にわたって企画した作品に、自分がこんなに素晴らしい役で携わらせていただけたこと、改めて感謝したいです。撮影に入る前に、所作指導の橘(芳慧)先生からは、「どれだけセリフがあるとか、出番があるかは重要じゃない。あなたがどんなキャラクターで出演できるかが大事」と声をかけてもらったんです。トウとして物語の中で生きる決意ができた、とても大切なお言葉でした。

――トウは暗殺者という役柄ゆえに、誰かの死や不在を感じるときに、出番がなくてもその存在を感じるキャラクターでした。山本さんご自身はそんなトウの背景をどう考えていたのでしょうか?

山本:オリジナルキャラクターなので、どんなにトウについて“勉強”しようと思っても資料もないし、答えがありません。だからこそ、三谷さんの言葉、書いたものを一つ残さず吸収しようと心がけました。あとは、梶原さんから吸収させていただいたものも非常に大きかったです。答えがないからこそ、いろんなパターンを楽しめましたし、現場でも振り切ったお芝居ができたと思います。本当に1話、1話の台本を頂くことが、私にとっての1番の役作りでした。三谷さんからは「変に考え込まず、相手をちゃんと見ていたら、絶対にいい芝居ができる」と声をかけていただきました。そのお言葉どおり、錚々たる俳優の皆さんたちを相手に、毎日が成長の場だったなと思います。その場での反応、咄嗟に出てきたものを表現するというのは、これまでの作品ではあまりできなかったことなので、自分の中で新たな引き出しが生まれた感覚です。

――そして、なんと言っても素晴らしかったのが、善児の最後となるシーンです。トウにとって善児は師でもあり、親の敵でもあり、父でもあり……。トウとして善児のことをどんなふうに山本さんは捉えていましたか?

山本:おっしゃるとおりで、いろんな相反する感情をトウは善児に抱いていたと思います。10歳のときに、親を善児に殺されて、そのままなぜか育てられる。いつか、善児を殺すという思いを抱きながらも、10歳だから、この人に付いていかないと、自分は生きていけないかもしれないという諦めのようなものがあったと思うんです。暗殺の技を仕込まれて、憎い人のはずなのに、育ててくれたという恩が、少しずつ自分の中で湧きたくないけど湧いていくような複雑な心。実際、梶原さんにお会いしたときに、あまりにも素敵な人すぎて、トウも恩愛の方が勝ってしまうかもと思ったんです。リハーサルでお芝居を重ねていくときも、ちょうどいい間を梶原さんが掛け合いでアドバイスをくださって。私自身が梶原さんに嘘偽りない感謝と尊敬を抱いていたことも、トウの感情と重なる部分があったように思います。トウの人生を考えると、善児を殺して自分も死ぬという選択肢もあったように思うんです。でも、そうしなかったのは、善児から「お前は生きていけ」というメッセージをもらったんじゃないかなって。善児とトウの半生が、あのシーンから少しでも感じていただけていたらうれしいですね。

ーー間違いなく伝わっていると思います。

山本:本当ですか? 自分ではわからなくて、そう言っていただけてうれしい限りです。

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