小池栄子「生涯忘れることのできない役に出会えた」 『鎌倉殿の13人』北条政子への感謝
NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』がついに終わりを迎える。視聴者を魅了した数多くの登場人物が途中で命を失い、姿を消していく中で、第1回から最終回まで、物語を牽引した1人が北条政子だ。劇中でもっとも辛い思いをし、もっとも変化した人物と言っても過言ではない政子。日本史に残る「演説」に至るまで、新たな政子像を小池栄子は体現しきった。すべての撮影を終えて、彼女はいま何を思うのか。
「自分が想像していたより『北条政子』を愛してしまった」
ーー2年前の出演発表の際、「(前回出演した大河ドラマ『義経』は)楽しむ余裕も無く終わってしまい悔いが残っています」とコメントされていました。『鎌倉殿の13人』の撮影を終えて、今回は“悔いがない”撮影になりましたか?
小池栄子(以下、小池):今回はちゃんと楽しめました。現場で“息を吸う”こともできたし、周りを見渡すこともできて。どんな仕事も諦めないで続けていくとこんなご褒美が待っているんだなと。第1回から最終回まで出番のある、こんなに重要な役を任せていただいたことに本当に感謝しています。それと同時に、三谷(幸喜)さん本人にもお伝えしたのですが、私にオファーすることは勇気がいることだったと思うんです。大河ドラマは過去に1度しか出演していないですし、時代劇の経験も決して多くない。NHKとしても、三谷さんとしても大きな賭けだったと思います。だからこそ、その期待に応えたいと思いましたし、撮影の後半は本当に1日1日がとても愛おしくて、終わってしまうのが寂しかったです。
ーークランクアップを迎えた日に、小池さんが「もう政子になれないのが悲しい」と涙を流したと清水拓哉制作統括がコメントされていました。小池さんにとっても政子はかけがえのない役になったと。
小池:そうですね。あまりにも自分が想像していたより、「北条政子」という人間を愛してしまって。もう1回初めからやり直したいと思うぐらい政子に魅了された1年半でした。だから心から「もう政子になれないのが寂しい」という言葉が出たんだと思います。そして、本当に小栗さんが作り上げた現場の温かさが心地よくて。『鎌倉殿の13人』の現場に通うのが生活のルーティンになっていたので、仲間たちと離れる寂しさもこみ上げてきました。
ーー歴史上の人物のイメージは大河ドラマをはじめとした時代劇で演じた役者さんのイメージが強く残る方がほとんどだと思うのですが、今後数十年は「北条政子=小池栄子」で認識される方が多いと思います。
小池:街中でも「政子さま」って呼ばれる機会が多かったんです。演じた役が視聴者の皆さんに届いてるんだと実感できて、すごくうれしかったですし、励みになりました。映画、ドラマ、バラエティ、どんな作品でも実際に観てくださっている方々がどんなふうに楽しんでいただけているのか、なかなか分からないところがあるのですが、大河ということもあり、今回は実際に声をかけていただけることが何度もありました。過酷なシーンのときやつらいときに、声をかけてくださった方々のお顔が浮かぶんです。そのおかげで乗り切れたことも多かったので、とてもありがたかったですね。
ーー改めて第1回の頼朝(大泉洋)と出会う前の頃の政子と、第40回以降の政子を見比べると顔つきがまったく違います。主人公・義時(小栗旬)の変化も凄まじいですが、小池さんは政子の変化をどのように表現しようと意識されていたのでしょうか?
小池:年齢を重ねることによる特殊メイクはしないという方針は事前に聞いていたので、外見ではない部分で何ができるかを考えていました。話すスピードや動き方など、いろいろ考えてはいたのですが、意識的に変えたのは声のトーンぐらいでしょうか。ある意味、義時を演じる小栗さんほど「変わった」と思われなくていいのかなと。八田(知家)殿(市原隼人)の最後の登場回で年齢をカミングアウトして視聴者の皆さんも驚かれたと思うのですが(笑)、本作は登場人物たちの年齢がそんなに大事ではないんですよね。私自身も八田殿が何歳かなんてまったく気にしていなくて、このシーンでみんな年齢があるんだよなと思ったぐらいなんです。なので、外見的な部分での変化を意識するというよりも、役柄を通して変化していく心の部分が自然と出せるようにと心がけました。ただ、小栗さんは芝居のひとつひとつが本当に見事で、目線の動かし方から瞬きの仕方まで、義時の変化を考えて演じていました。その点は本当に勉強になりましたし、私もまだまだできることがあったのではと今でも思います。
ーー視聴者としては、小池さんの変化も素晴らしかったです。特に第43回からは政子の顔つきが明らかに違っていました。
小池:そんなふうに言っていただけてうれしいです。第42回~43回あたりから、お芝居の“受け”と“引き”を変えたところはあったと思います。実は演出の皆さんから、「それは政子じゃない」と現場で指摘されたことがあって。私は政子が裏に何かがあるような含み持たせた感じで表現していたのですが、「政子はもっとまっすぐな人物だ」と。りく役の(宮沢)りえさんや、丹後局役の(鈴木)京香さん、藤原兼子役のシルビア(・グラブ)さんの演技を見て、自分も振り切った芝居を、と思ったのが見透かされたような感じだったんです。ただ、第44回以降は政子も受けではなく、能動的に動いていくので、ここからは自分主体でお芝居を変化させることができました。監督たちも政子の動きを許してくれるというか。それが「承久の乱」のあの演説につながっていくんです。演じていても、「政子ってこういうふうに語りかけるんだ」と思ってしまうぐらいでした。