『舞いあがれ!』もNHK大阪放送局 半年交代体制から生まれた“BK朝ドラ”ならではの持ち味

 ヒロイン姉妹を演じた三倉茉奈・佳奈の愛らしさから「マナカナブーム」が起きたり、登場人物のひとりである“通天閣の歌姫”オーロラ輝子(河合美智子)が役名のまま紅白歌合戦に出場したりと、社会現象を起こしたヒット朝ドラである。しかし、メインの題材は「将棋」と、実に渋いもの。さらに、正反対の双子である麗子(菊池麻衣子)と香子(岩崎ひろみ)の、「人間の業」「勝負師の性」を鮮烈に描いた意欲作だ。

 その作り手たちは口を揃えて、「マナカナブーム」も「オーロラ輝子人気」も想定外だったという。これらは、「お話」そのものが面白いからこその「副産物」に過ぎない。『ふたりっ子』のチーフ演出をつとめた長沖渉は、BKの朝ドラならではの制作の状況について、こう語る。

「大阪局と東京局に大きな違いはないと思います。ただ、『うるさい外野が遠い』というのはあるかもしれないですね」

「『ふたりっ子』で将棋をあつかいましたが、大阪だから実現したというのはあるかもしれない。東京だと席に呼び出されて『将棋なんて主婦層にはウケない』で終わってしまったでしょう。大胆な企画、冒険できる企画は大阪のほうがとおしやすいかな」(※1)

 1996年当時の朝ドラは「主婦層」をメインターゲットとしており、視聴者の多様化が進んだ現在とはもちろん状況が違うものの、「東京だと『〇〇なんてウケない』で終わりそう」といえば、落語を扱った『ちりとてちん』(2007年後期)や、陶芸を扱った『スカーレット』なども当てはまりそうだ。企画の大胆さでいえば、劇中にミュージカル要素を取り入れた『てるてる家族』(2003年後期)や、当時連続ドラマの執筆未経験だった渡辺あやをいきなり朝ドラの脚本に抜擢した『カーネーション』も、BKだから実現したと言えるかもしれない。

 また、『ふたりっ子』の脚本をつとめた大石静は、企画の成り立ちと制作についてこのように語っている。

「チーフ・ディレクターの長沖渉さんと『今までにはない、目が離せなくなるような朝ドラを作ろう』と話していたし、彫りの深い人物をちりばめ、日々鋭いエピソードを重ねていくことに命を懸けていましたね」

「当時週刊誌に連載していたエッセイを読んだ長沖さんに、『エッセイのようなとんでもなさや毒が、脚本にも欲しいね』と言われたんです。目から鱗の一言で」(※2)

 「朝ドラに『毒』を持ち込んでもいいんだ!」。筆者をはじめ、1996年当時『ふたりっ子』をリアルタイムで観ていた視聴者にとっては衝撃的だった。これもやはり、BKだから実現した内容と言えよう。

 さて、現在放送中の『舞いあがれ!』。『ふたりっ子』や『カーネーション』のような激しさはなく、ドラマ全体の穏やかなトーンや、ヒロイン・舞を演じる福原遥のふんわりしたオーラに目を奪われがちだが、「旅客機のパイロットを目指すヒロイン」という、言ってみればこれまた「ニッチ」な題材だ。表層の「柔らかさ」とは裏腹に、深部で描こうとしているテーマは質実剛健。ひとりひとりの登場人物の掘り下げの深さ、脚本の緻密さ、「神は細部に宿る」を余すところなく体現する演出、照明、大道具、小道具、消え物などのこだわり。やはり、「BKらしい朝ドラ」と言えそうだ。

 2023年後期の『ブギウギ』は、どんな「BKらしさ」を見せてくれるだろうか。楽しみに待ちたい。

参照

※1.『連続テレビ小説読本』(洋泉社)
※2.『朝ドラの55年』(NHK出版)

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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