『ロミオとジュリエット』の現代解釈版 ユニークなコメディ映画『ロザライン』の理念

ユニークなコメディ映画『ロザライン』の理念

 しかし本作のように、コメディとはいえ美しいシェイクスピア劇を改変して、ある意味で元の物語の描写を陳腐なものとして描いてしまうのは、抵抗があるという人もいるのではないか。だが、じつはシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』にも、さらなる元ネタが存在する。

ロザライン

 シェイクスピアの研究者・蒲池美鶴氏による『ロミオとジュリエット』解説によると、もともとこの話はイタリアの民話が原型であり、1554年に出版されたバンデルロの小説が大々的に物語を広めることになったのだという。1562年に初めて英訳され、それを基にしたアーサー・ブルックの長詩『ロミウスとジュリエットの悲劇の物語』が、シェイクスピア劇に直接影響を与えたとされている。少なくとも、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』は、すでに何度も手を入れられた物語を、さらに時代の流れに合わせ改変したものだということは疑いようがない。

 シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』は、とくに登場人物のマキューシオが魅力的に描かれ、『ロミオとジュリエット』の諸作のなかでも定番となったが、その後、ジェイムズ・ハワードなる人物が、ロミオとジュリエットが最後まで死なずに済む、「喜劇版ロミオとジュリエット」を書き、本来の悲劇とオリジナルの喜劇が毎日交代で上演されたこともあると、蒲池氏は書いている。

 また、1957年には『ロミオとジュリエット』を基に、ニューヨークの民族間の抗争を描いた舞台版『ウェストサイド物語』が上演され、それが映画化されたり、南米を舞台にしたバズ・ラーマン監督の映画『ロミオ+ジュリエット』(1996年)が製作されるなど、時代によってさまざまな『ロミオとジュリエット』のかたちが存在する。シェイクスピア劇は、その代表であると同時に、物語の一つのバリエーションでしかないのである。

 そうであれば、現代のクリエイターが、時代の流れに合わせて、どのように物語を改変しようが自由であり、われわれ観客もそれを気軽に楽しんでよいはずだ。本作は、まさに『ロミオとジュリエット』の現代解釈版といえる、レベッカ・マルレの2010年出版の小説『When you were mine(原題)』を参考に、脚本が書かれている。出版当時より映画化の企画が何度か出され、キーラ・ナイトレイや、リリー・コリンズがロザライン役として検討されたという。

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 それを、敬虔なカトリック教徒の少女が、禁じられている性的な探求を始める『ストレンジ・フィーリング アリスのエッチな青春白書』(2019年)など、常識や縛りを突破していく女性のエネルギーに満ちた作品を撮ったカレン・メイン監督が手がけたというのは、象徴的なことだ。

 これまでの思い込みや先入観を打破し、新鮮な考え方や見方を提示する。それが物語の面白いところであり、エンターテインメントの醍醐味でもある。シェイクスピアの時代から、それは変わらない。そして、それを主導しているのが本作では女性だというのは、冷静で知的、そして女性の能動的な活躍を体現する主人公を描く、『ロザライン』の理念に合致しているといえるのだ。

■配信情報
『ロザライン』
ディズニープラスのスターにて独占配信中
©︎2022 20th Century Studios

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