『アイドリッシュセブン』はアイドル像を縛らない “人間性”を大切にしたその魅力

『アイドリッシュセブン』は“人間性”が魅力

 秋アニメの注目作としても名前が挙げられる、TVアニメ『アイドリッシュセブン Third BEAT!』が現在放送中だ。スマホ向けアプリゲームを原作とすることから、アニメ版シリーズは通称『アニナナ』としてファンに親しまれ、2018年の第1期放送から本作で第3期第2クールを迎えた。

 元SKE48の松井玲奈がバラエティ番組で『アイドリッシュセブン』(以下、『アイナナ』)への溢れる愛を語ったことが一時話題にもなったが、イケメンが歌って踊るアイドルアニメは数あれど、本作には“『アイナナ』だからこそ”支持される理由が明確に存在する。

恋愛展開の少ないシリアスなシナリオ

 『アイドリッシュセブン』は父親の経営するアイドル事務所「小鳥遊芸能事務所」で働くことになったヒロインが、所属する7人組男性アイドル「IDOLiSH7(アイドリッシュセブン)」のマネージャーを担当するところから始まる。

 原作に則って、ヒロインの登場シーンはあるものの、『アニナナ』では基本的にイケメンたちの掛け合いが主体となってストーリーが進む。イケメンが活躍するアイドルアニメにありがちな、いわゆる「乙女ゲーム」的要素が全くないわけではないのだが、あくまでメインはアイドル界の頂点を目指し奮闘するイケメンたちだ。

 だからこそ、ヒロインとキャラクターの恋愛を楽しむ視点で観始めると良い意味で裏切られることになるだろう。アイナナの魅力は、恋愛要素を抜きにしたアイドルの成長譚としてのストーリーの面白さにある。

 まず各キャラクターたちが背負う、人生をかけたアイドルへの想いや複雑な家庭環境がとにかく重い。核心に迫るネタバレは避けるが、例えばセンターの七瀬陸は呼吸器系の持病を持ちながらもステージに立ち続ける。もちろん、そんな中で全てのステージが完璧に回るわけもなく……というように、『アイナナ』がファンを惹きつける理由の1つとして、どん底の展開への描写がとにかく徹底的である点は外せない。

 お客さんがほぼいない状態の会場でのライブ。他事務所によって仕組まれたスキャンダルによる炎上。イケメンたちに対して、これでもかと壁に次ぐ壁が立ちはだかるのが『アイナナ』なのだ。筆者もひとりの視聴者として、毎話「しんどいけれど観たい」というジレンマに駆られながら、放送を楽しみにしている。

 アイドルとはいえ、ステージでない場所では転ぶこともある。『アイナナ』が見せるのは、それでも夢を追って一生懸命に頑張る“未完成なアイドルたち”の姿だ。苦しみ、悩み抜いた先で、彼らが夢を叶える瞬間の景色をつい追いたくなってしまう。

 視聴回数を重ねるごとに「アイドルたちの恋の相手」以前に「アイドルたちを本気で応援する一人のマネジャー」として世界観に引きこまれる。それこそが、『アイナナ』の最大の魅力だろう。

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