『ボーダレス アイランド』がくれる“祈り”の記憶 忙殺された日常を見つめ直すきっかけに

『ボーダレス アイランド』が描く祈りの記憶

 そうなると、ただの劇中の舞台でしかなかった沖縄の島が、自分の心の中に明確に存在するようになってくる。筆者がエンドロール中に思い出していたのは、伝説的な写真家・星野道夫のエッセイの一節だ。

「東京での仕事は忙しかったけれど、本当に(アラスカにクジラを見に)行って良かった。何が良かったかって? それはね、私が東京であわただしく働いている時、その同じ瞬間、もしかするとアラスカの海でクジラが飛び上がっているかもしれない、それを知ったこと……(中略)」

ぼくたちが毎日を生きている同じ瞬間、もうひとつの時間が、確実に、ゆったりと流れている。日々の暮らしの中で、心の片隅にそのことを意識できるかどうか、それは、天と地の差ほど大きい。

星野道夫『旅をする木』(文春文庫)

 ここでいう「もうひとつの時間」が、本作が描き出した世界観、つまりは人々が祈りを中心に生活しているあの島の存在そのものなのだ。たとえ私たちが忙しい毎日に祈りの時間を持てなくとも、あの島で祈り続けている人たちのことを思うだけで心が少し軽くなる。そんな存在に出会えたことが筆者にとっての感動であり、世の中にこの映画の存在を伝えたいと思った理由だ。

 本作は限られた映画館での上映となっているのは事実。「このコラムをきっかけに本作を観に行った」なんて人がもしいるならば、ぜひ感想を聞いてみたい。ゆっくり話をしてみたい。そして願わくば、忙しない日々のなかで足を伸ばして“あえて”単館規模の映画を観に行ったことそれ自体が「もうひとつの時間」として、人生に刻まれますように。渋谷のオフィスから祈りを込めて。

映画「ボーダレス アイランド」予告編 第2弾

■公開情報
『ボーダレス アイランド』
10月1日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開
出演:李佳穎、朝井大智、中村映里子、城間やよい、洪綺陽、吉田妙子、尚玄、新垣正弘、ジョニー宜野湾、池間夏海、賴雅婷、大城なつえ、ベンビー、エリカ、小橋川嘉人、池間海智、平良直子、新垣晋也、加藤雅也
監督:岸本司
脚本:岸本司、木田紀生
エグゼクティブプロデューサー:井手裕一、福原康兒、大田高美雄
プロデューサー:大日方教史、張仟又
主題歌:HY「三月の陽炎」
音楽:辺土名直子、真栄里英樹
制作プロダクション:シュガートレイン、AZURE
製作:シュガートレイン、安通國際事業股份有限公司、琉球新報社
配給宣伝:MAP
配給協力:ミカタ・エンタテイメント
協賛:オリオンビール株式会社、AXMAN
撮影協力:沖縄観光コンベンションビューロー沖縄フィルムオフィス
制作支援:沖縄県
2021年/日本台湾合作/カラー/ビスタ/5.1ch/DCP/101分
©︎2021「ボーダレス アイランド」製作委員会
公式サイト:https://www.borderless-island.com/

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