『イカゲーム』『テッド・ラッソ』など快挙の第74回エミー賞を総括 視聴率低下の原因は?

第74回エミー賞を現地ライターが総括

 今年の第74回エミー賞授賞式は、例年と異なり月曜日夜(アメリカ現地時間)に放送された。これは、毎年4大ネットワークが輪番制で放送するエミー賞と、NBCの広告を支える「サンデーナイトフットボール」の中継が重なってしまったからで、放送局の都合で月曜日に移行された。前回NBCが月曜日に放送した2018年を境に視聴率が下がり続け、パンデミックに突入。昨年の第73回はそのほかの授賞式番組の視聴率が軒並み下落する中、なんと23%以上も視聴者数が増えた。そこで、NBCユニバーサル系列が力を入れているストリーミングサービス、Peacockとサイマル配信を行い、ケーブルカッター(テレビ放送に加入していない層)を取り込もうとした。だがその結果は、史上最低の視聴者数(590万人)だけでなく、広告指標として重要な18歳から49歳の占有率も最低を記録してしまった。(※1)敗因とされているのは、同時刻にABCで放送していた「マンデーナイトフットボール」今季初試合の中継(約1000万人)で、アメフトを理由に放送日をずらした結果、アメフトに打ち負かされてしまった。ちなみに他の配信サービスと同様、Peacockでの視聴数は発表されていない。

司会のキーナン・トンプソン Photo by Phil McCarten/Invision for the Television Academy/AP Images

 アメフト以外の低視聴率理由はいろいろと議論されている。月曜夜の放送ということ、NBCの人気番組、『サタデー・ナイト・ライブ(SNL)』出演の人気コメディアン、キーナン・トンプソンの司会も単調で、3時間の長丁場イベントを保つことができなかった。NBCがこの夜受賞した唯一の賞が、SNLのバラエティコント番組賞というのも皮肉である。さらにはノミネーション及び受賞作品がネットワーク局の放送作品ではなく、各社ストリーミングサービスの作品ばかりだというところが大きそうだ。普段ネットワークテレビを観る習慣がない層のためにPeacockでの配信を行ったが、Peacock随一の人気ドラマシリーズ『イエローストーン』はエミー賞で冷遇されていて、過去にも美術賞にしかノミネートされていない。卵が先か鶏が先か、もう4大ネットワークでエミー賞授賞式を放送すること自体が理にかなっていないのではないかという気すらしてくる。

 詳しい受賞結果はこちらの記事から。その中でも特筆すべき受賞結果を挙げていこう。

第74回エミー賞、『イカゲーム』イ・ジョンジェが主演男優賞&監督賞受賞で初の快挙

第74回プライムタイム・エミー賞の授賞式が、日本時間9月13日にアメリカ・ロサンゼルスで開催された。  作品賞は、ドラマ部門を…

 

リミテッドシリーズ作品賞『ホワイト・ロータス / 諸事情だらけのリゾートホテル』Photo by Phil McCarten/Invision for the Television Academy/AP Images

 最多受賞作品は、『ホワイト・ロータス / 諸事情だらけのリゾートホテル』(HBO/U-NEXT)。リミテッドシリーズ部門作品賞、監督賞・脚本賞(『スクール・オブ・ロック』などのマイク・ホワイト)、助演男優賞(マレー・バートレット)、助演女優賞(ジェニファー・クーリッジ)で、計5部門を受賞している。リミテッドシリーズ部門の主演女優賞がアマンダ・サイフリッド(『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』=Hulu/ディズニープラス)、主演男優賞がマイケル・キートン(『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』=Hulu/ディズニープラス)という、映画俳優たちというのも映画とテレビシリーズの垣根がなくなった時流を表している。

『イカゲーム』チーム Photo by Danny Moloshok/Invision for the Television Academy/AP Images

 ドラマシリーズ部門監督賞を『イカゲーム』(Netflix)のファン・ドンヒョク監督が、主演男優賞をイ・ジョンジェが非英語作品として初受賞している。二人とも受賞スピーチを英語で行い、これからも世界を相手に作品を作っていく意思表明を行った。ファン・ドンヒョク監督は、「これが最後の非英語作品のエミー賞受賞ではないと思います。そして、これが私にとって最後の受賞でもありません。シーズン2でここに戻ってきます!」と力強いスピーチを行った。

Directing for a Drama Series: 74th Emmy Awards

 一方、主演男優賞受賞のイ・ジョンジェは、監督やチームに惜しみない謝辞を述べた。今年のカンヌ国際映画祭で監督デビュー作の『HUNT(原題)』をプレミア上映し、北米でも公開予定。次回作では『スター・ウォーズ』のディズニープラス用シリーズ『The Acolyte(原題)』に主演することが発表されている。

Lead Actor in a Drama Series: 74th Emmy Awards

 また、ファン・ドンヒョク監督は受賞後記者会見で、Netflixが現在準備している『イカゲーム』のリアリティショー版の構想に関わっていることを明かした。「実は、昨日リアリティショーのクリエイターとの打ち合わせを行いました。彼らはたくさんの質問とアイデアを持っているようでした。ドラマの『イカゲーム』には、賞金を賭けたゲームに痛烈な社会批判が込められていますが、リアリティショーとして再構築する際には、シリアスになりすぎずに自由に新しい基軸を作ってくださいと伝えました」と語っている。『イカゲーム』シーズン2にはレオナルド・ディカプリオが出演を希望しているという談話も流れ、Netflixとしてはこのブームが去る前に制作し配信したいところだろう。

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