ドラマシリーズ部門作品賞は『メディア王 ~華麗なる一族~』(HBO Max/U-NEXT)が受賞した。作品賞のほか、助演男優賞(トム役のマシュー・マクファディン)、3シーズン連続となる脚本賞(ジェシー・アームストロング)を受賞。コメディシリーズ部門作品賞は、『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』(Apple TV+)。ジェイソン・サダイキスの主演男優賞、ブレット・ゴールドスタインの助演男優賞、M・J・デラニーの監督賞もそれぞれ受賞し、今年も圧倒的な強さを見せつけた。『テッド・ラッソ』は2020年の配信開始時からシーズン3で完結することが伝えられているが、受賞後インタビューでシーズン4の可能性についてサダイキスは、「これは僕の判断じゃなくて、みなさんの支持にかかっているのでは? 僕の口からは何とも言えません。この返答が、あなた方が書く記事の見出しとして求められているのはわかりますが(笑)」と煙に巻く発言をしていた。以前のテレビシリーズの作り方であれば、人気が出ると次々と新しいシーズンに継続していたが、最近のシリーズは完璧な形で作品を終わらせるクリエイターがイニシアチブを握り去就をコントロールする事例も増えている。『テッド・ラッソ』とジェイソン・サダイキスがどちらの道を選ぶのかにも注目が集まっている。
エミー賞のノミネーションが特定作品に偏ることも、もはや珍しくなくなってしまった。ドラマシリーズ部門では『メディア王 ~華麗なる一族~』出演俳優が7名ノミネートされ、助演男優賞部門は8名中3名が『メディア王』組。『イカゲーム』『セヴェランス』(Apple TV+)からも複数名ノミネートされている。コメディシリーズ部門も『テッド・ラッソ』組から主演、助演男優3名、助演女優3名の大量ノミネート。リミテッドシリーズ部門は『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』と『ホワイト・ロータス / 諸事情だらけのリゾートホテル』で各部門のノミネートを分け合い、助演男優賞では『パム&トミー』(Hulu /ディズニープラス)のセス・ローゲン以外は2作品の出演者で占められ、助演女優賞は『ホワイト・ロータス』5名、『DOPESICK』2名というありさま。このノミネーションからは、受賞結果を予想する気も失せてしまうだろう。
この日放送されたプライムタイム・エミー賞受賞作品のうち、4大ネットワークで放送されているドラマは『アボット・エレメンタリー』(ABC・Hulu/ディズニープラス)のみ。今作は、ABCで放送されると同時に系列ストリーミングのHuluでもサイマル配信されている作品なので、視聴者は必ずしも放送で観ているとは限らない。ネットワーク局制作のドラマが最後にドラマ・シリーズ部門作品賞を受賞したのは2006年の『24 -TWENTY FOUR-』(Fox)で、コメディ部門では2014年の『モダン・ファミリー』(ABC)だった。それ以降、HBOなどのケーブル局や配信サービス制作番組が幅を利かせている。
ブレット・ゴールドスタイン ©Eric Charbonneau
ジェイソン・サダイキス ©Eric Charbonneau
コメディシリーズ助演男優賞ブレッド・ゴールドスタイン(『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』) Photo by Lisa O'Connor/Invision for the Television Academy/AP Images
『サタデー・ナイト・ライブ』チーム Photo by Lisa O'Connor/Invision for the Television Academy/AP Images
ドラマシリーズ助演女優賞受賞のジュリア・ガーナー(『オザークへようこそ』)Photo by Lisa O'Connor/Invision for the Television Academy/AP Images
リミテッドシリーズ主演男優賞マイケル・キートン(『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』Photo by Lisa O'Connor/Invision for the Television Academy/AP Images
リミテッドシリーズ主演女優賞アマンダ・サイフリッド(『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』Photo by Lisa O'Connor/Invision for the Television Academy/AP Images
コメディシリーズ脚本賞クインタ・ブロンソン(『アボット・エレメンタリー』)Photo by Lisa O'Connor/Invision for the Television Academy/AP Images
ドラマシリーズ主演女優賞ゼンディヤ(『ユーフォリア/EUPHORIA』)Photo by Danny Moloshok/Invision for the Television Academy/AP Images
『イカゲーム』のチョン・ホヨンと『THE GREAT ~エカチェリーナの時々真実の物語~』エル・ファニング Photo by Jordan Strauss/Invision for the Television Academy/AP Images
ドラマシリーズ監督賞受賞ファン・ドンヒョク監督(『イカゲーム』)Photo by Phil McCarten/Invision for the Television Academy/AP Images
ドラマシリーズ主演男優賞イ・ジョンジェ(『イカゲーム』)Photo by Phil McCarten/Invision for the Television Academy/AP Images
イ・ジョンジェと長年のパートナー、韓国の大財閥「テソングループ」の令嬢イム・セリョン Photo by Dan Steinberg/Invision for the Television Academy/AP Images
イ・ジョンジェと長年のパートナー、韓国の大財閥「テソングループ」の令嬢イム・セリョン Photo by Dan Steinberg/Invision for the Television Academy/AP Images
チョン・ホヨン Photo by Jordan Strauss/Invision for the Television Academy/AP Images
セス・ローゲン(『パム&トミー』)Photo by Danny Moloshok/Invision for the Television Academy/AP Images
エミー賞の投票権を持つのは、テレビ番組制作に携わる約17000名の米国テレビ芸術科学アカデミー会員。多くのストリーミングサービスが事業を開始し、把握しきれないほどのテレビ番組が作られているピークTV時代、実際に制作に携わるスタッフの労力も相当なものだろう。そんな彼らは視聴者よりもテレビ番組を観ていないのではないだろうかーー? ノミネーション結果からそれが伝わり、テレビ番組を楽しんでいるファンがエミー賞への興味を失っているのが視聴率低下の原因なような気がしている。
参考
※1. https://variety.com/vip/2022-emmys-ratings-analysis-1235371728/
アメリカ・ロサンゼルス在住ライター。東京生まれアジア育ち。映画雑誌編集→NYでライター→LAにて任期付外交官→映画業界復帰。2021年より、ゴールデングローブ賞を選考するハリウッド外国人記者協会所属。
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