『鎌倉殿の13人』中川大志、大河史に刻まれた名演 あまりにも武士だった畠山重忠の最期

大河史に刻まれた中川大志の名演

 『鎌倉殿の13人』(NHK総合)第36回「武士の鑑」。北条時政(坂東彌十郎)は源実朝(柿澤勇人)から畠山重忠(中川大志)追討の下文を得て、三浦義村(山本耕史)、和田義盛(横田栄司)、稲毛重成(村上誠基)らを集い、対応を協議する。北条と畠山の間で板挟みとなった義時(小栗旬)は、政子(小池栄子)、時房(瀬戸康史)らと事態の収集を図る。

 第36回で目を引いたのは、何を隠そう重忠を演じている中川の演技だ。中川の凛とした眼差し、激情が伝わる表情変化と佇まいからは、義時や義村、義盛と長年の付き合いがあるからこそ見えてくる重忠の「本気」が伝わってきた。武士としての筋を通すため、重忠は戦い抜いた。さまざまな戦を勝ち抜いてきた坂東武者の最期には心震えるものがあった。

 物語冒頭でちえ(福田愛依)に向けたあたたかな眼差しの中にも、重忠の覚悟が垣間見えた。「行ってまいる」という重忠の声色とちえを見つめる眼差しは、複雑な立場にいるちえを安心させようとする包み込むような優しさに満ちていた。ちえの頬に愛おしそうに触れる重忠の手元が切ない。そんな重忠の眼は、ちえと別れる瞬間に凛然たるものに変わった。

 嫡男・重保(杉田雷麟)の死を知った重忠は、戦うには手勢が少ない中で陣を敷く。鶴ヶ峰で佇む重忠の姿は怖いぐらいに落ち着いていた。だが、重忠は義盛との対話の中で本心を曝け出す。高台に立った重忠は前を見据えたかと思うと、大きく顔を歪めてこう叫ぶ。

「戦など誰がしたいと思うか!」

 重忠は各地で転戦し、武勲をあげてきた。源義経(菅田将暉)とともに出陣した源平合戦での活躍も鮮明に思い出される。知勇兼備で武士の鑑といわれる重忠だが、中川が見せた叫びには、重忠の偽らざる思い、切実な願いが込められていたように感じた。

 その後、重忠は義盛を振り返るとふっと笑みをこぼす。重忠と義盛は正反対の性格だが、共に行動することが多かった。今となっては、お互いのことは言葉を交わさずとも分かる仲だ。そんな相手だからこそ、戦への本心だけでなく武士としての意地も打ち明けられる。戦になると決まれば敵対することになる2人が、「戦で決着をつけよう」「手加減抜きで」「武人なら当然よ」と力強い目つきで言葉を交わす場面に胸が熱くなる。

 戦は、重忠と義時の一騎討ちとなる。義時や義村、義盛らの軍勢が見守る中、重忠と義時は斬り合い、殴り合った。お互いに一歩も引かない戦いが続くが、重忠は手強い。義時が劣勢となり、重忠は鬼のような形相で義時にとどめを刺そうとする。けれど、重忠が振り下ろした刀は義時を貫かなかった。荒い息遣いの重忠がふいに笑う。

 重忠はその後討ち取られるが、この戦いに真に勝ったのは重忠のように思われる。重忠の目的は義時を討つことではなかった。逃げるいわれがないから逃げず、戦ういわれがないから兵を集めなかった重忠が義時らを迎えうったのは、己の誇りを護るため。本気で義時を討ち取らんとする気概はあったが、義時を殺す義理はない。中川の今にも殺さんとする鬼のような形相もその後に見せた笑みも、重忠の実直な心情を表している。重忠は第35回で「本当に鎌倉のためを思うなら、あなたが戦う相手は」と義時に問いかけている。そんな重忠の思いは、刀を振り下ろしたあの瞬間に、義時に十分伝わっていたはずだ。この先、義時がどう進むべきかを改めて問いかけるような、そんな笑みだった。

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