田中裕子主演『千夜、一夜』本編映像公開 森達也、八代亜紀ら著名人からのコメントも
10月7日に公開される田中裕子主演映画『千夜、一夜』の本編映像が公開された。
本作は、『家路』の久保田直監督最新作。北の離島の美しい港町を舞台に、理由もわからぬまま突然姿を消した最愛の夫を30年にわたり待ち続ける主人公の姿を描く。ドキュメンタリー出身の久保田監督が「失踪者リスト」から着想を得て、青木研次によるオリジナル脚本をもとに、8年の歳月をかけて完成させた。
主人公・登美子を田中が演じるほか、登美子とは対照的な女性・奈美に尾野真千子、登美子に想いを寄せる漁師の春男をダンカン、失踪した奈美の夫・洋司を安藤政信がそれぞれ演じる。
公開された本編映像は、2年前に失踪した夫・洋司を探す奈美が、登美子に連れられ、警察署を訪れるシーン。生活安全課の安斎(田中要次)は登美子の姿を見るなりすぐにかけより、「若松さん、閲覧かい?」と尋ねるが、「今日は私じゃないんです」と登美子。安斎に案内され、身元不明遺体の似顔絵一覧を眺める奈美。そこには似顔絵に加えて発見年月日、発見場所、推定年齢、体格、着衣物、所持品などの情報が並んでいる。そのリストに一瞬たじろぎながらも、夫に似た顔がないか、ひとつひとつの似顔絵をじっくりと見つめる奈美。登美子はその姿を心配そうに見守る。前に進むために、夫が「いなくなった理由」を探す奈美。しかし、ある日登美子は街中で偶然、洋司を見かけて……。
あわせて各界の著名人や、劇場関係者から絶賛コメントが到着。総勢17名から寄せられたコメントは下記の通り。
コメント
森達也(映画監督・作家)
人の心は不条理だ。言葉で説明などできない。だからこそ映画なのだ。
一人だけ明確な言葉と行動を示す春男の顛末が滑稽で哀しい。
ラストの海のシーンは、そのカメラワークも含めて圧巻。
今もまだ余韻に浸っている。
乃南アサ(作家)
一本のカセットテープが三十年の時を繰り返し巻き戻す。
だから女は動けない。ただ狂おしく、過ぎた時に引きずられる。
佐渡の海はさぞ冷たいだろうに。
鎌田實(医師・作家)
「待ち焦がれる」女たち。「待つ」って、愛、憎しみ、不安……希望。
ドロドロした心を美しい映像で見事に表現。こんな大人の映画を「待っ」ていた!
八代亜紀(歌手)
待ち続ける女性の姿に、強さと儚さを感じました。
様々な感情を表現する役者の皆様の演技が素晴らしかったです。
洞口依子(俳優)
海を前に待つ女。待たれる男。待つ女の千夜と観る側の一夜。
待つ女の時間の中にある、淡い光も闇も、女の顔も男の顔も、凪いだ海も、映画を観る私にはたった一夜の出来事だ。
何という縁だろう。田中裕子、安藤政信の信憑性。二つの一等星を見つけた気分。
川内倫子(写真家)
待つという行為は涯がなく、人生の深淵を覗き込むように、答えもないことだ。
登場するふたりの女性のそれぞれの在り方に自分を重ね、誰かを待つことで自分に向かい合うことの怖さを思った。
加藤登紀子(歌手)
久しぶりに見る男と女の壮絶なドラマでした。
いない人を愛する狂おしい日常、静けさの中の狂気。田中裕子さん、凄い!
名越康文(精神科医)
人生はけっしてその人の中でのみ完結はしない。だれかが誰かの人生に感応して、その度に人生は充実してゆく。
しかしそれは合理的、近代的な文明の枠組みの中ではほとんど語られず、むしろ忌避され続けてきた。
この映画はその合理主義の現代からこぼれ落ちた、真の人間の魂の交合を見事に表現している、稀な作品だと思う。
岡野あつこ(パートナーシップアドバイザー)
『帰ってこない理由なんてないと思ってたけど、帰ってくる理由もないのかもしれない』
男は納得できないことから逃げられるが女は納得しないと前に進めない。
待つことは、前に進むための昇華の時間。
近藤ようこ(漫画家「兄帰る」)
登場人物は全員「待つ人」や「語らない人」で、ロンドのようにつながっていく。そのつなげかたが見事。
人が人と関係することの危うさ儚さはカセットテープに残る声のようだ。
鯨本あつこ(NPO法人離島経済新聞社 代表理事・統括編集長)
理由らしい理由が語られない人々の物語は、この島国にごまんとある。
夢物語とはいかない現実を、受け入れるでもなく拒絶するでもない人の心情が、島の曇り空と重なる。
秋本鉄次(映画評論家)
「愛」は貫かれるべきか? 踏ん切りを付けるべきか?
2人の「待つ女」。その対照の妙に魅了された。
これは「愛」に関する、女たちの“心のハードボイルド”。
そこには未練な男どもが付け入る隙など無いのだ!
尾形敏朗(映画評論家)
30年の歳月を経ても夫を待つ登美子。その肉体にくすぶり続ける情炎。
田中裕子さんは性に結びついた生を演じられる稀有な女優だ。
田上真里(長野ロキシー館主)
気が付きにくいけれど、紛れもなく、これはピュアな愛の映画でした。
特に、登美子が“あの夜”に語るシーンに、思わず涙がこぼれました。
長澤綾 (フォーラムシネマネットワーク劇場編成)
最愛の夫との思い出と、孤独と後悔を全て体の中に閉じ込めて生きた30年。
色々なものが滲み出てしまっている登美子が愛おしくて好きにならずにいられません。
水野昌光(三重・進富座館主)
人は、これほどまでに人を待ち続けることができるものだろうか?
……困った、とんでもない映画を観てしまった。
中島ひろみ(札幌・シアターキノ館主)
私がいちばんきれいだった時、最愛の人は姿を消した。
いくつもの夜、いくつもの朝がやってくる。幾通りもの「なぜ?」がつきまとい
静かな怒りが心に沈殿する。ふと気づくと心が空っぽになって
擦り切れたカセットテープからきこえてくる声が心を埋める。
自身の人生を生きるということは覚悟なのだと、ラストシーンの女の後姿を見て思う。
震えが止まらない。
■公開情報
『千夜、一夜』
10月7日(金)テアトル新宿、シネスイッチ銀座ほか全国公開
出演:田中裕子、尾野真千子、安藤政信、ダンカン、白石加代子、長内美那子、田島令子、山中崇、阿部進之介、田中要次、平泉成、小倉久寛
監督:久保田直
脚本:青木研次
製作:映画『千夜、一夜』製作委員会
配給:ビターズ・エンド
2022年/日本/カラー/ビスタ/DCP/5.1ch/126分
©︎2022映画『千夜、一夜』製作委員会