『ちむどんどん』が描きたかったものは人生のやり直し? 暢子=椰子の実を考える

『ちむどんどん』が描きたかったものを考える

 最終回まであと3週、物語が収束に向かっているのを感じる “朝ドラ”ことNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』第22週「豚とニガナは海を超えて」。『ちむどんどん』のテーマのひとつに「ひとはやり直せる」がありそうだ。第22週は矢作(井之脇海)の贖罪の話だった。矢作は暢子(黒島結菜)の「アッラ・フォンターナ」時代の先輩料理人。暢子をライバル視して何かと冷たく当たる。だんだんとそれがエスカレートして、突然辞めて店に迷惑をかけたうえ、自身がはじめた店がうまくいかなくなると、フォンターナの権利書を盗んで大問題を起こす。すっかり食い詰めたところを暢子が新店舗・ちむどんどんに誘い、人生のやり直しをはじめた。

 やり直しの物語として意外とシビアーだなと感じたのは、第108話でフォンターナの同僚に食事会の料理を矢作だけ焦げたもの出されるという嫌がらせである。以前だったら「てめえ」と切れそうな矢作が黙って堪えていることを二ツ橋(髙嶋政伸)だけが見ている。まさに主題歌「燦燦」の「大丈夫、ほら見ている」である。

『ちむどんどん』第110回

 盗みを働いても警察沙汰になぜかならないとはいえ、罪は容易には消えない。警察という絶対正義みたいなものに解決を任せず、当事者たちで罪に対処していく。こうして矢作は暢子たちの共同体に参加していくことになる。この流れは贖罪の物語であるとともに独特の社会形成の物語をも感じる。これこそが暢子たちの世界なのだろう。世界のルールを何かの権威に任せず、自分たちで作っていく。沖縄県人会というのはまさにその象徴であろう。

 独自の社会を築き守り合って生きている暢子たちは、見方によっては閉鎖的である。例えば智(前田公輝)。彼は暢子が信用金庫に支払う予定の大金がなくなったとき、まっさきに矢作を疑い激しい剣幕で責め立てる。賢秀(竜星涼)がいろんなことをやらかしても責めないにもかかわらず(責めないのは主に優子(仲間由紀恵)。智も賢秀の行動を知っているはずだが責める場面はない)、矢作にはかなり厳しい。それは矢作がよそ者だからだろうと思うとルールのなかでしか生きられない不自由さを感じざるを得ないが、矢作は同僚の辱めや偶然にせよ暢子が大金を忘れていくという試しのような洗礼を経て、共同体の一員になっていく。その様子は第107話で重子(鈴木保奈美)が暢子を船の船長に例えることと重なって見える。船とはまさに一心同体、共同体の象徴である。

 重子は暢子のことを「遠い南の島からたったひとりでやって来て」“冒険”をしていると称え、自分たちは暢子の冒険の乗組員になるのだと言う。“ちむどんどん”という沖縄料理店を経営する冒険の船旅に、様々な失敗をしたり傷ついたりしてきた人たちが続々と乗り組んでくる。矢作のあとにはおそらく賢秀が参加することだろう。彼こそが、『ちむどんどん』最大の反省とやり直しを求められている存在である。一攫千金を目指して何度も借金を繰り返し、悪気ないとはいえ犯罪ぎりぎりのこともやらかしている。暢子たち家族は彼を厳しく咎めることをせず、長らく自由にさせてきた。他人の言うことや権威からの罰によって無理やり生き方を変えるのではなく自分で気づくしかないというように。

 もうひとり、やり直したい人物がいる。賢秀といい感じになっていた猪野養豚所のひとり娘・清恵(佐津川愛美)である。彼女は過去にしくじっていて、そのせいで人生が終わったと悲観している。でもそんなことはない、やり直すことはできるのだと賢秀は語る。自分自身が度重なる失敗をやり直したいと内心思っていることも明かした彼が清恵を救うことで、長く暗いトンネルから抜け出すことができれば、これが『ちむどんどん』のクライマックスなのかなと想像する。

 もうひとり、贖罪とは違うけれど、弱気の虫に悩み続ける歌子(上白石萌歌)がいる。幼い頃から思い続けてきた智との恋を叶えることで弱気の虫に打ち勝てるか。これができれば、比嘉家四兄妹は立派に自立してめでたしめでたし。公式サイトの文言にある「遠く離れても家族の絆に励まされながら、ふるさとの「食」に自分らしい生き方を見いだし、やがて沖縄料理の店を開くことに。ヒロインは、四人兄妹の次女で、兄、姉、妹がいる。四人はそれぞれに異なる道を歩み、気持ちが離れるときも訪れます。それでもふるさと・沖縄の味が、思い出が、四人の心をつなぐ。困難や挫折に見舞われ、誰かが心折れそうなときには、互いに身を削り、支え合っていきます」にぴったりハマる(※1)。

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