『ちむどんどん』が描きたかったものは人生のやり直し? 暢子=椰子の実を考える

『ちむどんどん』が描きたかったものを考える

 『ちむどんどん』は過去の様々な黒歴史から浄化された乗組員たちを乗せて暢子の冒険の旅は続くーー。その流れに、ハワイの沖縄移民が戦争で食糧難にあった沖縄に豚を届けた感動実話『海から豚がやってきた』がうまいこと絡む。7人が船に乗って豚を届け、彼らは「七勇士」と呼ばれている。沖縄から移民した人たちの子孫が沖縄を助けるために立ち上がる。ここにもまた離れていても沖縄にルーツをもつ者たちの強い助け合いの精神を感じる。

 海を渡った豚とサブタイトルに並ぶ「ニガナ」は沖縄の野菜で、第110話で優子が海を渡って東京の暢子に届けた。

 もしかして、第22週では「贖罪」と「食材」がかけてあったのか。冗談はさておき、沖縄で生まれたものが海を渡って広がっていく。と、ここで、思い出すのは、歌子がよく歌っていた「椰子の実」である。遠い島から流れ着いた椰子の実の歌で、ここまで来ると、椰子の実とは暢子のことであろうと解釈できる。重子が言ったように、遠い南の島からたったひとりで(海を渡って)やって来た椰子の実のような暢子。

 「椰子の実」を島崎藤村が書いたきっかけは民俗学者・柳田國男である。彼は20代の頃、渥美半島の伊良湖岬に椰子の実が流れ着いているのを見たことをきっかけに、日本民族の祖先は遠い南方から海を北上し沖縄の島づたいに渡来した仮設を思いつき、晩年「海上の道」を書いた。若い頃に思いついたことを長い時間をかけてようやくまとめあげたのだ。これが、第90話で房子(原田美枝子)が暢子に語ったニーチェの言葉「汝(なんじ)の立つ処(ところ)深く掘れ、そこに必ず泉あり」と繋がり、第110話で、暢子がその言葉どおり「足元の泉」を見つけるに至る。

 沖縄の歌ではない「椰子の実」の歌をなぜ使用しているのか、『ひよっこ』オマージュのみならず、意図があるに違いないことがここへ来てようやく確信が持てた(なんていってまったくの考えすぎだったすみません)。暢子は椰子の実であり、同時に椰子の実から自分のルーツに思いを馳せた探究心の塊でもある。

 9月9日に『あさイチ』(NHK総合)にゲストで出演した黒島結菜が、島に興味があると語っていた。沖縄は島で、周辺の島々からいろいろな文化が入ってきているので、名前も知らない島に行って生活を見てみたいと言う黒島の話を聞いて、まさに椰子の実の心を持った人だと感じた。

 ちなみに「椰子の実」といえば、いまやヒロインのお母さんをたくましくあたたかく演じている仲間由紀恵の出世作『トリック2』(テレビ朝日系)のemisode5で民俗学者が「日本人は椰子の実だ」と力説している。

参照

※1 https://www.nhk.or.jp/chimudondon/

■放送情報
連続テレビ小説『ちむどんどん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
主演:黒島結菜
作:羽原大介
語り:ジョン・カビラ
沖縄ことば指導:藤木勇人
フードコーディネート:吉岡秀治、吉岡知子
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:松田恭典
展開プロデューサー:川口俊介
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
写真提供=NHK

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