宮沢りえ、『鎌倉殿の13人』で発揮する天性の愛らしさ りくはただの“悪女”にとどまらない

宮沢りえ『鎌倉殿』で発揮する天性の愛らしさ

 このシーンの、政子に諭すような、りくの胸のすくような晴れ晴れした表情がキュートで、彼女が背負っているものすべてを表現しているかのような演技が忘れられない。プライドの高いりくは、都から伊豆へ嫁ぎ、都での暮らしにより強い憧れを抱いても、その思いを共有できる相手はいない。頼朝が力を増すほどに、御台所として周囲から期待され、政子の存在が引き上げられていくほど対抗心も強くなったはず。

 そんな立派な御台所になりつつある政子の弱い部分(頼朝の浮気)にちゃっかりつけこむことができたこと。政子に教えてあげたいと思っていた都の習慣を1つ教えてあげられること。身近で身内の争いごとの一部始終を知ることができること。

 りくは、兄・牧宗親(山崎一)に「大ごとにはしたくないので。ちょっと」と念押しし、頼朝の妾の家を形だけ打ち壊すよう依頼した。悪気なく、無邪気に兄に頼むその笑顔はまるで少女のよう。この可愛げ、宮沢りえの天性のものなのかもしれない。

 頼朝が急死し、頼家(金子大地)が2代目鎌倉殿になると、御家人同士の争いが勃発。第28回「名刀の主」で描かれた「梶原景時の変」で、りくは「これを機会に、梶原殿(中村獅童)を引きずりおろしてしまいましょう」と言ったかと思えば、三浦義村(山本耕史)が集めた梶原景時に対する訴状では時政に名前を巻紙いちばん最後に書くように指示。最終的に67人の御家人の署名が集まると、いちばん左端に書いてあった時政の名前を小刀ですっと切り離した。

 万が一、頼家と梶原景時が結託すれば署名した御家人は処分が下される。時政さえ助かればいい、というりくの魂胆。勢いやその場のノリで突き進むのではなく、一貫して自分たち夫婦がどうすれば権力を握れるかという目的を見失わないところもたくましい。

 最近はCMで見せるおしゃれで理想的なお母さんの顔も素敵だが、やはり舞台や映画など数多の経験を経て、積み重ねてきた深みのある演技に魅了される。毒のあるセリフも華やかで可愛げのあるりくが口にすることで絶妙な響きとなって耳に残る。

 今後、鎌倉においてりくは時政をどのようにあおり、動かしていくのか。「鎌倉あっての北条」と考える義時や政子との関係も考えると、りくの言動から目が離せない。

■放送情報
『鎌倉殿の13人』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK

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