2022.08.16 18:00

ポルノグラフィティ『Visual Album“暁”』は創造芸術の競演に　“90分間”の作品の充実感

文＝筧真帆

　大人になった少女の部屋で大きな木箱を開けると、ポルノグラフィティグッズがぎっしり。隅にあった蓄音機を模したオルゴールに小さな人形たちを並べると、くるくると回りながらメロディを奏でる。レコード針を落とす音で始まる「You are my Queen」に繋がり、色鮮やかな衣装を纏ったモデルたちが回るレコード盤の上で、歌詞とリンクするパントマイムを披露。メランコリックな映像が、異世界を覗き込んだような感覚をもたらす。

　そして少女は木箱の中に、“PORNO GRAFFITTI　Theme Song”と記載されたライヴチケットを発見。昨年の『続・ポルノグラフィティ』ツアー最終日のちょうど1年後という、パラレルワールドなチケットだ。昨年のツアーでは歓声も出せない状況だったが、少女が持つチケットは今年の12月。MCで「今度こそ大きな声で歌ってひとつになろう」と岡野が叫んだことへ、期待を込めた未来なのかもしれない。チケットを眺めつつ目を閉じると「テーマソング」のMVへ。

ポルノグラフィティ『テーマソング』/ PORNOGRAFFITTI『Theme Song』

　広く薄暗いカラオケルームにいる少女。寂しげに「メビウス」のラストを歌い、同曲をハミングする別の女性がオーバーラップする。一転、韓国・ソウルの夜。ハミングをしていた女性が、彼氏と手を繋ぎ繁華街を駆け抜けると、「メビウス」のギターイントロが始まる。幻想的なサウンドに乗せて、女性が幸せな日々を思い出しながらカラオケを歌う。ドラマチックな映像で、楽曲の世界観が沁みわたる。

　病院の待合室で、父を待つ少女と母。紺のラッピングペーパーに包まれた赤い花束がアップになると、紺と赤の映像で始まる「フラワー」のMVへ。花束で父を迎え帰宅した3人は、退院祝いのケーキを囲み、少女はスマートフォンで音楽を流す。流れて来た「ジルダ」を耳にし、「俺の青春のバンドだからな」と一緒に歌い出す父。3人はノリノリで映像を撮り合い、「ジルダ」のMVの合間には岡野と新藤がそれぞれ自撮りした歌唱動画も、サプライズ的に差し込まれる。

ポルノグラフィティ『フラワー』/ PORNOGRAFFITTI『Flower』

　動画撮影を楽しむ母と少女に、「中国の四川で若者たちをテーマに撮ったポルノの新しいDVDだ」と差し出す父。DVDのケースを開けると、ー雑貨屋の店先でタバコをふかす男性の姿から、「クラウド」がスタート。火を借りにきた女性のタバコにライターの炎が着いた瞬間、2人の日常が始まる。愛し合う2人の思い出が記録ムービーのように進み、「もう大丈夫、ありがとう」と女性は去って行く。ライターの火を付けっぱなしだった男性は現実に戻る、切ない映像だ。

　物置のような場所の片隅で、女の子のイラストを描く少女――イラストと同じ女の子が登場する、「悪霊少女」に続けて青春ロードムービー的な「ナンバー」の映像へ。そして、ヘッドフォンをしながら、音楽に陶酔しながら踊る少女。と突然、激しく踊り出し、いよいよラストの「暁」へ。ポルノグラフィティの真骨頂ともいえる疾走感溢れるロックサウンドが、観る者へエネルギッシュに訴えかける。

ポルノグラフィティ『悪霊少女』MUSIC VIDEO

ポルノグラフィティ『暁』MUSIC VIDEO

　全てのMVの上映が終わり、家族3人のリビングでは食事をしながらポルノグラフィティのテレビ出演を鑑賞。そこへインターホンが鳴り、玄関の扉を開けると岡野と新藤の姿が。大喜びする家族の笑顔で本編は終了。ラストはリビングのソファーにて、岡野と新藤がインタビューを受ける。今回の上映に当たって「MVと言いつつ（新作は）ビジュアル作品と捉えられる」と新藤。2人が全く出てこなかったり、難解な映像もあるが、それを大スクリーンで体感する価値を説いた。今作は、世界のクリエイターたちの目線を通した創造芸術の競演だったと言えるのではないだろうか。そして3人家族が紡ぐストーリーが我々鑑賞者の拠点となり、複数の国へ旅に出たような充実感をもたらした。過去には映画館で『LIVE FILM「REUNION」』や『しまなみロマンスポルノ'18～THE LIVE VIEWING～』を上映したこともあるポルノグラフィティだが、これまでのようなライヴにフォーカスした映像とは一味異なる作品となっていた。この90分間の思い出を、改めてアルバムをじっくり聴きながら溶かしていきたい。