ポルノグラフィティ『Visual Album“暁”』は創造芸術の競演に “90分間”の作品の充実感
ポルノグラフィティが8月3日にニューアルバム『暁』をリリースしたことを受け、8月6日と7日、全国91カ所の映画館で、映像作品『Visual Album“暁”』の上映を行った。全15曲のMVとそのストーリーを紡ぐショートフィルムで構成され、クリエイティブ集団 kidzfrmnowhereの創設者であるYUANNを監督に迎え、日本をはじめ、アメリカ、韓国、フランス、中国、インドネシアのクリエイターが参加した。当記事では、約90分に渡る同作の見どころを振り返りたい。
まず登場したのは、緑に囲まれた一軒家。小学生くらいの少女は、「ブレス」が流れる部屋で机に向かい、イラストに夢中だ。壁にはポルノグラフィティ作品のジャケットやイラストがびっしり。母はリビングを掃除、父は自動車の整備中。少女の部屋の一角には、段ボールで作られた秘密基地があり、ポルノグラフィティの作品のモチーフで満たされ、ピンクのネオン管が怪しく光る。カメラのヘッドセットを頭につけると、「ブレス」のMVがスタート。
ケーキを食べる少女の横で、テーブルを挟んで両親が喧嘩をしている。少女は家を飛び出し、1台のタクシーに飛び乗った。「どちらまで」とドライバーが尋ねると、「どこでもいいから連れてって」と少女。ネームプレートには“19-99098/新藤晴一/2022.08.03/PG交通株式会社”の表示が。黒縁メガネの新藤晴一ドライバーの顔が、いつの間にかゾンビに! タクシーを飛び降りた少女に、新藤ゾンビが迫ってきて――「Zombies are standing out」へ。ヴィンテージな色彩のなか、骨太ロックを響かせる音の怪物たちが襲いくる。
激しい雨音と雷雨が響く夜の草むらで、突然少女は雷に打たれ、目覚めるとサーキットのコースにワープし、「バトロワ・ゲームズ」の世界へ。ファンクなリズムに乗せ、ダンサーの少女たちがキレキレのヒップホップダンスを踊り出す。機械アームを着け対決したり、ヘルメット姿の男性たちと対決する姿など、“VS”構図にアニメ的なCGを乗せ、目も耳も楽しい作品に。
宇宙に浮かぶ地球に続き、渋谷の交差点が映し出される。街の雑踏音を被せる形で始まったドキュメントタッチな「VS」のMVを経て再びストーリーパートに戻り、10年後が描かれる。病院でCT検査を受ける父。医師から病状を告げられ、深刻な表情で帰路につく。ガレージに並ぶ整備中の車や工具を懐かしそうに眺める父を、車のホイールに潜むカメレオンが見つめている。工具をタイヤのボルトにかけた瞬間、活き活きと働いていた10年前にタイムスリップ。首にかけた『BUTTERFLY EFFECT』ツアーのタオルで汗をふく父。再び現在に戻り、“ハネウマ”のエンブレムが光る車のカバーを取る。「お父さん何してるの? こんな時間に」と大人になった少女が現れると、「乗らないか、一緒に」とドライブに誘い出し、続いては「カメレオン・レンズ」のMV。夜のドライブとMV前半のモノクロのトーンに加え、父の心境とミステリアスなサウンドが見事にリンクしていた。
部屋で掃除機をかける母が「証言」の一節を耳にし、何かが憑依したかのように踊り出す。と、そこに岡野が目の前に現れて、楽曲のサビを歌いかける。うっとり岡野に見惚れていたが、それは夢だったーーパリの街を背景にした屋上や、光が差し込むスタジオで、海外のダンサーたちがコンテンポラリーダンスを見せる「証言」。愛する人を失った喪失を歌うロックバラードを体現するかのように、人間の業を肉体で示していた。