『ちむどんどん』桜井ユキ、田中偉登が紡いだ“昔話” 回想シーンに込められた若者への願い

『ちむどんどん』回想シーンに込められた願い

 房子(原田美枝子)と三郎(片岡鶴太郎)の“昔話”が語られた『ちむどんどん』(NHK総合)第17週。2人は今の暢子(黒島結菜)と和彦(宮沢氷魚)のように、家柄の違いから結婚を反対され、別れを選んだことが明らかになった。

 思い出すのは、第75話で恋と仕事の両立に葛藤している暢子の背中を押した房子のセリフだ。

「つかみたくてもつかめなかった人たちの分まで、あなたは全部つかみなさい」

 この言葉には反対を押し切ることができず、三郎を裏切ってしまった若さを悔いるとともに、暢子が同じ轍を踏まないようにという房子の優しさが込められていたことが分かる。

 そんな房子をはじめ、本作は暢子ら若者をとりまく年長者たちの眼差しが印象的だ。失敗ばかり。誰かを傷つけたり、傷つけられたり。人生に右往左往する若者の姿を彼らが呆れるでもなく、温かく見守るのは時代に翻弄された過去があるからだろう。

 戦争で大切な人を失ったり、家柄の違いだけで結婚を諦めなければいけなかったり、自分の意志とは関係なく幸せが手からこぼれ落ちていくのをただ眺めることしかできなかった哀しみがそこにはある。

 そんな時代を経て、暢子たちはまっすぐに幸せを追い求めることができている。『ちむどんどん』はそのことを描くために、歴代の朝ドラの中でも、かなり親世代の過去を描く回想シーンがふんだんに盛り込まれている作品だ。キャストが豪華で、それだけでも一つのドラマとして成り立ちそうなほどである。

 特に話題となったのは、第15週「ウークイの夜」で描かれた優子(仲間由紀恵)と賢三(大森南朋)のなれそめ。元々、優子の両親が営む那覇の食堂で住み込みの従業員として働いていた賢三。その後、賢三は出征するも、戦後に2人は再会を果たした。戦争で何もかも失った優子にとって、賢三は唯一の希望となる。

 彼女が「幸せになることを諦めないで」と何度も子供たちに言い聞かせていたのは、自分もかつて賢三から同じことを言われたから。そのことが明らかになった回想シーンで、優子と賢三の若かりし頃を演じたのは、優希美青と桜田通だ。

 中でも注目を浴びたのは、優希と仲間のリンクぶり。ビジュアルはもちろんのこと、2人が演じる優子の控えめな佇まいや、憂いを帯びた表情がぴたりと重なるものだった。一方、桜田はセリフが少ない中でも、賢三の夢見る若者だった戦前と、心に深い傷を負った戦後。そして、優子と出会い、大切な存在を得てからの変化を言葉以上に表情で雄弁に語っていた。

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