“再婚”と“婚活の駆け引き”を題材にした『梨泰院クラス』!? 『再婚ゲーム』が問う価値観

『再婚ゲーム』が視聴者に問う“価値観”

 このようなデッドヒートが展開するなか、もともと穏やかな性格である上に「条件が良くない」と言われているヘスンが、それでもユヒに打ち勝つために成功をつかもうとする姿には、思わず拳を握り締めて応援したくなってくる。しかし、相変わらずユヒはあらゆる卑劣な方法で嫌がらせを仕掛けてくる。彼女がやっかいなのは、法律に強い弁護士であることだ。“悪”と“法”が結びつき、攻守において最強といえる存在と、果たしてヘスンはどう戦ってゆくのか。

 そんなヘスンに接近する男性会員は、イ・ヒョヌク演じる大富豪のイ・ヒョンジュと、パク・フン演じる幼なじみの大学教授チャ・ソクジン。ヘスンが、この二人のどちらに惹かれていくことになるのかも、大きな見どころとなっている。

 そして忘れてはならないのが、チャ・ジヨン演じる、レックスを経営し、ミステリアスな雰囲気を持つ女性チェ・ユソンだ。彼女の結婚に対する考え方は、とにかく条件の良い相手を選ぶこと。とくに女性は、“愛情”のような不確かなものではなく、経済力を持った男性を選ぶべきだという信念を持っている。自身も、金と権力を持った高齢男性と結婚するという行動によって、その結婚哲学を体現してみせているのである。

 このような、ハイソサエティな人々を中心に展開される恋愛悲喜劇と、財力に左右される人々の姿は、急激な経済成長を続ける韓国の社会状況の風刺になっているともいえるだろう。国際通貨基金(IMF)の発表では、韓国は2018年の時点で、GDP(国内総生産)において日本を追い抜き、日本以上の経済大国となっている。『梨泰院クラス』と『六本木クラス』の映像の表現力の差が象徴するように、ドラマや映画の完成度も、現在では韓国の方が先に進んでいる面が少なくない。

 新型コロナウイルスのパンデミックが起こるという、世界的な脅威にさらされているのは確かだが、かつてのバブル期の日本を想起させる、急激な上り調子は、韓国の人々のなかにも、一抹の危機感を覚えるところがあるのではないか。そんな一種の狂騒のなかで、『梨泰院クラス』や『イカゲーム』で描かれた、経済力がものを言うような現実についても、本シリーズは逆説的に疑問を呈している部分があるように思えるのである。

 本シリーズに登場する、仮面をかぶりドレスに身を包む人々や、客観的な条件が問われる結婚相談所に象徴されるように、社会的な強者になるために、さまざまな武装をしていくことが、人生のゲームの勝者になれるという価値観は、確かに現実的で効率的だと言えるかもしれない。しかし、そのために日々を送ることは、“自分自身のため”に生きているといえるだろうか。スキルや学問、仕事やファッションなどを目的ための武装と考え、結婚の相手をもそれで判断することは、それ自体を楽しもうとしない、逆に貧しい人生という考え方もあるのではないか。

 こう言うと、レックスのチェ代表のように、「それは偽善だ」と思う人もいるかもしれない。たしかに現実は厳しく、そんなこと言ってる場合じゃないという意見の方にも重みがある。本シリーズは、まさしく視聴者が、この両側の価値観に引っ張られることになる作品なのだ。つまり、本シリーズの内容からどのような結婚観を見出すか、視聴者自身が問われることになるのが、このドラマの醍醐味なのである。

■配信情報
『再婚ゲーム』
Netflixにて配信中
Studio DAUN/Netflix (c)2022

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