『ジュラシック・ワールド』が放つ“パーク”の魅力 ラプトルとT-REX共闘の感慨深さ

『ジュラシック・ワールド』の感慨深さ

 1993年に公開された『ジュラシック・パーク』は、実業家ジョン・ハモンド(リチャード・アッテンボロー)の野望と、彼が金に糸目をつけずに建設しようとしたテーマパークの実現が頓挫する物語である。ビジターセンターも建設中で、乗り物もまだ試運転の段階。しかし、そんなパークや恐竜への感想と意見を自分の孫と見識者を招いて聞こうとし、見事に散々な目に遭う。それでも彼の創設したインジェン社は恐竜という金塊を諦めることもなく、続編の『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』で再びパーク建設を目論む。

 第1作目の舞台であるイスラ・ヌブラル島ではなく、サイトBことイスラ・ソルナ島で捕獲した恐竜をサンディエゴに運ぼうとするわけだが、目玉となるTレックスが街に解き放たれて大暴れ。もう流石にパーク建設を誰もが諦めたのか(メディアの視線も気になったはず)、その続編の『ジュラシック・パークIII』ではソルナ島への潜入と脱出を巡る物語に終始。最後は恐竜たちがそれぞれの島で伸び伸びと暮らしているという妄想膨らむ事実だけを残して(どこかへ飛び立つプテラノドンの行方にも期待しつつ)、パーク3部作は幕を閉じた。当時小学生だった私を含む本シリーズのファンは、まさかその14年後に建設のみならず運営されたパークを拝めるなんて、あの時思ってもいなかっただろう。

ついに開園されたパーク 忘れられていないレガシーの精神

 第1作目から22年後に公開された『ジュラシック・ワールド』は、ノスタルジー要素はありつつもそこに頼らず、新たなキャラクターを軸に展開させたガッツのある続編だった。製作費1.5億ドルに対し、世界興行収入は16.7億ドル。2022年7月17日時点で累計世界興行収入ランキングは7位という立ち位置のメガブロックバスター映画だ。『ジュラシック・パーク』を知らない世代でも楽しめる一方で、知っているからこそ感慨深いティラノサウルスのレクシィの活躍や、人間とラプトルの関係性の変化などの深みが楽しめる。本作の好きなところは、そういった新しいことに挑戦しつつも、レガシーへの扱いがしっかりしていて、あらゆる場面でリスペクトが感じられることだ。

 物語の中でもジュラシック・パークで起きた惨劇から22年の月日が経ち、その間にインジェン社がマスラニ・グローバル社に買収されたことから、イスラ・ヌブラル島の権利がマスラニ社に移行。それにより、マスラニ社長(イルファーン・カーン)が亡きハモンドの野望を実現させるため、島に新たに「ジュラシック・ワールド」という高級リゾートテーマパークを設立。毎日2万人が来場するということだが、この数字は東京ディズニーランドおよびシーが2022年1月23日から制限した入場者数の最大値である。2019年には1790万人がランドに来場、すなわちこの年は1日あたり約4万9千人もの人が訪れているわけで、こうしてみるとディズニーランドってすごい。

 余談はさておき、「ジュラシック・ワールド」も負けてはいられない。ディズニーランドにも参加企業があるように、こちらもイノベーションセンターの看板に提供会社「SAMSUNG」の文字が光り輝く。園内にはスターバックスもあるし、レストラン施設やお土産ショップも十分に完備。何より、目玉となるアトラクションも盛りだくさんだ。体長18メートル、体重5トンのモササウルスにホオジロザメを与える“エサやりショー”は、島の中央に位置するプールで2時間ごとに開催。カヤックに乗って草食恐竜が生息するエリアを川下りする「白亜紀クルーズ」や、子供たちが赤ちゃん恐竜と触れ合える「ジェントル・ジャイアンツふれあい動物園」も凄いし、ジープに乗ってガリミムスと草原を駆け抜ける「ガリミムス・バレー」でグラント博士(サム・ニール)気分を味わったり、「T-REXキングダム」では至近距離で園内に20年以上も住む女王ティラノサウルスを拝めたり、『ジュラシック・パーク』ファン垂涎のアトラクションしかない!

 ライドツアーも、「ジャイロスフィア」と呼ばれる操縦式のカプセルに乗ってパークを自由に行き来できるようになっていて、第1作目の全然恐竜の姿が見られないエレクトリックカーの失敗が生かされているのが心強い(とはいえ通信障害にはなるし、結果的に改善の余地が大有り)。この、ファンが妄想していたパークの完成そのものが本作のワクワク感でありつつも、それらが一瞬にして崩壊し、お客が絶叫しながら逃げ惑う姿がやっぱり本作の最大の魅力である。結局のところ、『ジュラシック・ワールド』も『ジュラシック・パーク』と同じ、「イカロスの翼」がテーマになっている点でしっかり“ジュラシック映画”なのだ。

 そのテーマ性は今回初登場するインドミナス・レックスにも体現されている。ハイブリッド恐竜の存在は決して突飛ではなく、テーマパークで金を儲けることばかり考える強欲な人間たちが最も考えそうなことだ。より大きく、より多くの歯を。迫力のある恐竜を生み出すことで、パークの来場者数を増やそうとする彼らではあったが、その計画は失敗に終わる。

 そもそも見せ物として作り上げる恐竜のDNAにカモフラージュ効果のあるイカを混ぜたことや、そんなに凶暴で危ない恐竜の監視に警備員を1人しか配置させない甘さなど、本作はツッコミどころも満載であるものの、クライマックスのティラノサウルスとラプトルたちの共闘シーンがそれら全てを清算してしまう。バイクと並行してラプトルが走る夜のシークエンスを含め、本作は何かと最高にクールなビジュアルがいくつも登場する。そういう、細かいことを気にさせる余地を与えない剛力さも、嫌いじゃない。

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