『拾われた男』は最高の“敗者”たちの物語 愛とエネルギーに溢れた脚本・演出・役者たち

 『拾われた男』最大の魅力は、通常のドラマの4倍濃い脚本と、たとえば衣裳スタッフやカフェ店員、オーディションを受けに来た青年など、一瞬しか映らないキャラクターでも鮮やかに存在させる演出だ。

 諭1人に明かりを当てるために、主軸以外の登場人物たちを道具にするようなことはせず、まるでバタフライエフェクトのように誰かのひとことで他の誰かが影響を受けて物語が展開するさまは痛快。さらに、クリエイターたちの真剣かつ遊び心溢れた仕事に乗っかる俳優たちの贅沢な演技は輝いて見える。キャストは全員素晴らしいのだが、特に個性をむき出しにして画面の中で暴れまくる女性俳優陣には拍手を贈りたい。もちろん、実在かつ近い位置にいる俳優役を担う仲野太賀の自然な芝居からも目が離せない。松尾と仲野、元のビジュアルがさほど似ているとは思えないのだが、ドラマ中、10回くらいは仲野が普通に松尾に見える(多分、老眼は関係ない)。

 いまひとつ元気がなかった春ドラマを蹴散らすように、夏スタートのドラマは勢いのある作品が多い。その中でも録画や配信を4回見返して、そのたびに新鮮に笑ったり泣いたりできるのは現状、この作品だけである。さらにこの後、結(伊藤沙莉)は諭と深い縁で結ばれるようだし、いきなりアメリカに消えた兄・武志(草なぎ剛)関係でも一波乱ありそうだ。

 というか、これだけ愛とエネルギーに溢れ、技術力に長けたこのチームで朝ドラやってくれないかな……と遠い目になったところ、足立紳氏は2023年後期のNHK朝ドラ『ブギウギ』でも脚本を担うとのこと。そして本作の監督・井上剛氏は『あまちゃん』や『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(ともにNHK総合)のチーフ演出だった。ヤバい、そりゃおもしろいはずだよ、小ネタで『Wの悲劇』も出てくるよ。

 なにはともあれ、負けた人間、去った人間を魅力的に描くドラマは最高だ。この世は勝者のみで出来てはいないのだから。

■配信・放送情報
『拾われた男』
ディズニープラスにて配信中
NHK BS プレミアムにて、毎週日曜22:00〜放送
出演:仲野太賀、伊藤沙莉、鈴木杏、伊勢志摩、北村有起哉、要潤、安藤玉恵、前田旺志郎、北香那、松本穂香、岸井ゆきの、片山友希、大東駿介、塚本晋也、六角精児、夏帆、松尾諭、柄本明、ベンガル、綾田俊樹、末成映薫、井川遥、風間杜夫、石野真子、薬師丸ひろ子、草なぎ剛
原作:松尾諭著『拾われた男』(文藝春秋刊)
監督:井上剛
脚本:足立紳
音楽監督・音楽:岩崎太整
制作・著作:ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社/株式会社NHKエンタープライズ
(c)2022 Disney & NHK Enterprises, Inc.
公式サイト:https://www.disneyplus.com/ja-jp
公式Twitter:@DisneyPlusJP
公式Instagram:@disneyplusjp
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