『バズ・ライトイヤー』に存在した、『トイ・ストーリー』シリーズとの精神的に強い繋がり
アニメーション業界のトップの一角である、ピクサー・アニメーション・スタジオの代名詞といえる、『トイ・ストーリー』シリーズ。そのスピンオフとなる映画『バズ・ライトイヤー』が公開されている。
本作『バズ・ライトイヤー』に登場する主人公、“バズ・ライトイヤー”は、みんながよく知っている『トイ・ストーリー』のメインキャラクター、“おもちゃのバズ・ライトイヤー”ではなく、本物の「スペースレンジャー」という設定。おもちゃの基となる映画作品がもし存在していたら、こういう内容だったのではないかという趣向で、新しく設定、ストーリーを構築したSF作品なのだ。
驚かされるのは、スピンオフであるにもかかわらず、その範疇にとどまらない姿勢で、気合が入りまくった内容に仕上がっていることである。SF作品としても、「ウラシマ効果」や惑星開発などのSF要素が優れた描写で表現されているという点できわめてレベルが高く、もちろん娯楽アクションとしても、ファミリー向け映画としても満足できる仕上がりになっている。そこは、さすが現在の第一線にあるブランド、ピクサーといったところだろう。
だが一方で、本作に『トイ・ストーリー』シリーズの要素を期待していた観客のなかには、不満を抱いた人たちも少なくなかったようだ。ウッディなどの人気キャラクターは登場せず、全て『バズ・ライトイヤー』の世界観のなかで物語が紡がれていくのである。
本作ではバズの声を『キャプテン・アメリカ』シリーズのクリス・エヴァンス(日本語吹き替え版では鈴木亮平)が新たに担当しているが、これまでのシリーズでバズの声を演じていたティム・アレンは、アメリカのエンターテインメントニュースマガジン「Extra」の取材で、本作『バズ・ライトイヤー』について、「『トイ・ストーリー』シリーズのバズとは、内容的に関係がないように感じます。もっと、良いつながりがあれば良かったのに」と述べている。シリーズのファンのなかで本作に違和感を覚えている観客は、まさにここでのティム・アレンと同じような印象を持ったのではないだろうか。
しかし、果たして本当に本作は、彼の言うように、これまでのシリーズと関係の薄い内容だったのか。そのような疑問を筆者が覚えたのは、本作には『トイ・ストーリー』シリーズに通じる、同種の満足感が存在しているように思えたからである。ここでは、シリーズと本作が精神的に強い繋がりがあるのではという前提で、その印象を裏付けるべく、本作のストーリーを振り返っていきたい。
本作の主人公バズは、前述したようにおもちゃではなく、正真正銘のスペースレンジャーとして活動している人物。だが自身のミスのために1200人の乗組員とともに危険な惑星に不時着し、航行のために必要なクリスタルを破損するという窮地に陥る。バズは惑星を脱出することでレンジャーとしての失態を取り戻すべく、新しく生成したクリスタルを使い、何度も何度も高速飛行のテストを繰り返す。
ここで登場するのが、「ウラシマ効果(リップ・ヴァン・ウィンクル・エフェクト)」だ。これは、亜光速(光に近い速度)で航行する宇宙飛行士が、「相対理論」における時間差現象によって、地上に帰還すると世の中が先の時代に進んでしまっているというもの。それでも、自身の過失の責任を感じているバズはテスト飛行を続け、先の時代に行くことで、大事な人との別れを経験することとなる。このエモーショナルなドラマと、高速飛行の刺激的な描写が複雑に交錯する一連のシーンは、本作の白眉といえる。
ヒーローとして一人で困難を乗り越えようとするバズだが、彼にとって意外だったのは、年代が進むなかで周囲の人々の考え方が変化し、惑星に適応していこうという考え方が広まっていったことだ。それは人々の進歩でもあったが、バズはその状況を受け入れられず、ルールに違反して強硬手段に出てまでも飛行を続けることになる。それはバズのヒーロー性を示す一方で、柔軟さに欠ける偏執的な面をも印象づけている。
その後、さらに時代が進むなかで惑星は、新たな危機に見舞われ、バズはその困難にも立ち向かうこととなる。そこで出会うのが、新しい仲間たちだ。この面々はバズの力になりつつも、スペースレンジャーとして経験がなく、失敗ばかりしている。しかし次第にチームはそれぞれの個性を発揮して大きな助けとなっていき、バズにとってなくてはならない存在へと変化することとなる。