『スプリガン』はなぜいま新たにNetflixでアニメ化されたのか 1998年の劇場版と比較
しかし、この劇場版の鬼気迫る出来は例外中の例外であったことも確かだ。それを裏付けるようにシリーズ化されることはなかったし、あの水準を保ち続けることもまた、状況的に無理があったはずである。題材に対して作画や演出に気合いが入り過ぎたことで、ストーリーの明快さや娯楽性とのギャップが生まれている印象すらある。それも含め、90年代の日本アニメーションには、異様な“空気”があった。
とはいっても、この劇場版が、時代を代表する作品にまでなり得なかったのは、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』や『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』(1997年)という、いまでは伝説化した劇場アニメーション作品が、すでに公開していたからだといえるのではないか。その意味で今回のアニメシリーズ制作は、もう一度『スプリガン』という題材を問うものでもあったはずである。
本シリーズの特徴は、昨今の漫画原作のアニメシリーズの多くがそうであるように、原作本来の魅力を引き出すアプローチとなっている。劇場版ほどの重厚感や臨場感はないものの、一気にエピソードが揃って観られることで、主人公が次はどの国に行って、何の古代遺産を守るのか、どんな敵と出会うのかを、わくわくしながら気軽に楽しめるのである。
こういった、エージェントが世界を奔走する『007』型の作品は、日本の作品では比較的珍しく、海外の娯楽映画を観ているような独特の充実感がある。例えば『ルパン三世』や『スペースコブラ』、『カウボーイビバップ』のような、基本的に“1話完結型”の、スケールの大きな世界観の活劇作品に近い。このようなシリーズには、時代を超えて愛される息の長い魅力があるものが少なくなく、単発的な企画を出しやすいという利点があるものの、成立させるには特有の難しさがある。それぞれのエピソードごとに、独立した一作としての見応えが必要になるからだ。脚本、演出、動画など、それぞれの負担は大きくなるだろう。
だが、このようなタイプのシリーズは、それが王道的な娯楽の形態の一つであるからこそ、クリエイターたちのレベルを上げる題材だともいえるのではないか。もし、本シリーズが高い評価を受け、続編が長く望まれる状況になるならば、今後オリジナルストーリーで制作されていくことも考えられるかもしれない。『スプリガン』という題材には、このような可能性が存在するのだ。
とはいえ、第5話に登場した敵、ボー・ブランシェの「分身の術」のように、ギャグが含まれた描写だとしても、かなりチープに見える演出が散見されるところもあった。原作の味を活かそうとすることで、2022年の作品を観ているはずなのに、90年代に引き戻されるようなセンスを感じてしまうのである。
現代的なテイストで生まれ変わっているわけでもなく、はたまた映画『キャプテン・マーベル』(2019年)のような、90年代をわざわざフィーチャーしたものにもなっていないため、本シリーズの内容には中途半端な印象を受けてしまうところがある。それを突き詰めていくと、なぜいま『スプリガン』が制作されるのかという疑問に突き当たることになる。
原作が描かれた頃から30数年の時が経った。その間、世界の情勢は変化し、様々な社会問題は深刻化し続けている。マーベル映画が、そんな“いま”の状況を作品に反映させ続けているように、政治的な要素が多く含まれている『スプリガン』という題材もまた、現代の動きとともに変わり続けていくべきものなのではないだろうか。そして、このような“眼”を持つことこそが、日本のクリエイター全体の課題になっているように感じるのである。
■配信情報
Netflixシリーズ『スプリガン』
Netflixにて全世界独占配信中
キャスト:小林千晃、阿座上洋平、子安武人、浜田賢二、大塚明夫、麻生智久、小林沙苗、伊瀬茉莉也、神戸光歩、河瀬茉希、渡部紗弓、早見沙織、赤崎千夏(崎はたつさきが正式表記)、成田剣、乃村健次、村瀬歩、岩田光央、間宮康弘、細谷佳正、稲田徹、菅生隆之、竹内良太、増谷康紀(ナレーション)ほか
原作:たかしげ宙、皆川亮二『スプリガン』(小学館『少年サンデーコミックス』刊)
監督:小林寛
副監督:三宅将平
シリーズ構成・脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン・総作画監督:半田修平
サブキャラクターデザイン・総作画監督:内藤直
プロダクションデザイン:JNTHED
美術監督:金子雄司
色彩設計:三笠 修・佐々木梓
CGディレクター:石井規仁
撮影監督:元木洋介、村上展之、鯨井亮
編集:三嶋章紀
オープニング主題歌:Seeking the Truth feat. YAHZARAH/岩崎太整
エンディング主題歌:Ancient Creations feat. Shing02/岩崎太整
音楽:岩崎太整
音響監督:長崎行男
ミキサー:小原吉男
音響効果:倉橋裕宗、白石唯果
音響制作:ダックスプロダクション
音楽制作:エイベックス・ピクチャーズ
制作:david production
製作:スプリガン Project
(c)2021 たかしげ宙、皆川亮二・小学館/スプリガン Project
公式サイト:https://spriggan-anime.jp/
公式Twitter:@spriggan_anime
Netflix作品ページ:netflix.com/spriggan