ストリーミング全盛時代の視聴者を満足させる 犯罪実録ドラマシリーズ流行の3つの理由

犯罪実録ドラマシリーズ流行の3つの理由

 「事実は小説よりも奇なり」はもはや通説だが、2022年上半期に配信開始され人気を博したドラマシリーズには、ある共通点がある。どれも、女性(を含むグループ)が投資家と世間の目をくらませたのちに凋落していく実話ものだ。例えばNetflixの『令嬢アンナの真実』、Apple TV+の『WeCrashed ~スタートアップ狂騒曲~』、そしてディズニープラスの『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』など、どれも人気女優が実在の人物に扮し、彼女たちが世界をどう操り、どう崩壊していったかを描いている。この流行には3つの理由があるとみている。

アンチヒロインとインスタントな資本主義

 自身をドイツの大富豪の令嬢と偽り、多額の金を周辺から巻き上げていたアンナ・デルヴェイ(本名アンナ・ソローキン)は、窃盗罪で逮捕・収監されていた。その姿を多少のデフォルメを交えながら描いたのが、『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学』などの人気プロデューサー、ションダ・ライムズ製作の『令嬢アンナの真実』(Netflix)。アンナ役には『オザークへようこそ』(Netflix)のルース・ラングモア役で知られるジュリア・ガーナーが扮し、無表情で高飛車にNYの社交界を騙しまくる。実話ルポルタージュ記事が原作で、嘘で塗り固めたアンナは上流階級に憧れを抱く人たちを巧みに操り金を巻き上げる。ファッショナブルで常に上から目線のアンナは一昔前のいかがわしい詐欺師とは異なり、100ドルのチップを躊躇なく撒くような行為で信憑性を持たせる。アンナの詐欺手口は、プライベートジェットで飛び回り複数の女性を騙したドキュメンタリー『Tinder詐欺師:恋愛は大金を生む』(Netflix)によく似ている。でも、もしも彼女が本当にアートに造詣が深く、出自を偽ることなく起業家として生きていたら……かなりの成功を収めていたかもしれない。その証拠に、2021年に仮釈放されたアンナ(・ソローキン)は、約32万ドル(約4326万円)でNetflixと作品製作契約を結び、詐欺被害額の返済に充てている。

『令嬢アンナの真実』DAVID GIESBRECHT/NETFLIX
『令嬢アンナの真実』DAVID GIESBRECHT/NETFLIX
『Tinder詐欺師:恋愛は大金を生む』Netflixにて配信中
previous arrow
next arrow
 
『令嬢アンナの真実』DAVID GIESBRECHT/NETFLIX
『令嬢アンナの真実』DAVID GIESBRECHT/NETFLIX
『Tinder詐欺師:恋愛は大金を生む』Netflixにて配信中
previous arrow
next arrow

 アメリカの経済を牽引するテック系企業の台頭により、1つのアイデアで一攫千金を得るインスタントIT長者が多数生まれていることも、こうしたドラマシリーズが増えた背景にある。アマンダ・セイフライドがメディカル・ベンチャーのセラノス創業者を演じた『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』(ディズニープラス)は、「カネを稼ぎたい」と学業よりも起業を選んだガール・ボス(Girl Boss)の元祖、エリザベス・ホームズの実話。エリザベスは、製薬会社や大手ドラッグストアチェーンという、保守的なおじさんたちが幅を利かせる業界で次々に融資や契約を取り付ける。“女スティーブ・ジョブズ”の異名をとった黒のタートルネックとケールのジュースを片手に、テクノロジーを使い保守的な業界を変えていく若き救世主になるはずが、最初のボタンの掛け違いが彼女の足を掬うことになる。このドラマシリーズは、良質なインディペンデント映画を多数製作・配給しているサーチライト・ピクチャーズ作品であることも見どころのひとつ。

『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』Photo by: Beth Dubber/Hulu
『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』Photo by: Beth Dubber/Hulu
『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』Photo by: Beth Dubber/Hulu
previous arrow
next arrow
 
『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』Photo by: Beth Dubber/Hulu
『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』Photo by: Beth Dubber/Hulu
『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』Photo by: Beth Dubber/Hulu
previous arrow
next arrow

 同様に、WeWork創業者夫妻として有名になったアダムとレベッカのニューマン夫妻を描いたApple TV+のドラマシリーズ『WeCrashed ~スタートアップ狂騒曲~』では、テック系スタートアップ企業のジェットコースターのような栄枯盛衰が描かれている。イスラエル出身のアダム(ジャレッド・レト)が、ヨガインストラクターの妻のレベッカ(アン・ハサウェイ)のアイデアを受けて立ち上げたコワーキングオフィスWeWorkは、日本のソフトバンク(孫正義役を演じるのは『模範タクシー』などに出演するキム・ウィソン)などからの融資を受け、時価総額約500億ドルにまで急成長した。だがIPO(新規株式公開)のための情報開示でずさんな事業計画や財務状況が明らかになり、ニューマン夫妻は凋落の道を歩むことになる。まるでフェスのような従業員研修やアルコールとドラッグにまみれたアダムの奇行はもとより、スピリチュアルに傾倒した妻レベッカの影響力もドラマの大きな要素になっている。女性主人公を描く際に、添え物のヒロインではなく、並外れた頭脳と度胸、カリスマ性を駆使し、ギリギリの悪事を働く女性像として登場させることが、2022年のエンターテインメント概況にマッチしたと言えるだろう。

『WeCrashed ~スタートアップ狂騒曲~』Copyright (c)2022 Apple Inc. All rights reserved.
『WeCrashed ~スタートアップ狂騒曲~』Copyright (c)2022 Apple Inc. All rights reserved.
『WeCrashed ~スタートアップ狂騒曲~』Copyright (c)2022 Apple Inc. All rights reserved.
『WeCrashed ~スタートアップ狂騒曲~』Copyright (c)2022 Apple Inc. All rights reserved.
previous arrow
next arrow
 
『WeCrashed ~スタートアップ狂騒曲~』Copyright (c)2022 Apple Inc. All rights reserved.
『WeCrashed ~スタートアップ狂騒曲~』Copyright (c)2022 Apple Inc. All rights reserved.
『WeCrashed ~スタートアップ狂騒曲~』Copyright (c)2022 Apple Inc. All rights reserved.
『WeCrashed ~スタートアップ狂騒曲~』Copyright (c)2022 Apple Inc. All rights reserved.
previous arrow
next arrow

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる