スタジオ買収劇にスカヨハ訴訟と激動のハリウッド キーワードは“コンテンツ・イズ・キング”

「コンテンツ・イズ・キング」のハリウッド

 コンテンツ・イズ・キング、直訳すると“コンテンツは王様”。9月1日に発表されたDisney+(ディズニープラス)とSTARの統合ブランド化、7月末のスカーレット・ヨハンソンによるディズニー訴訟、アマゾンによるMGM買収、A24が買収先を探しているとの報道、ソニーの子会社によるクランチロール買収……ここ数年、特にパンデミック以降のエンターテインメント界のニュースは、ほぼこの1センテンスで説明がつく。もともとはウェブ業界などでSEO対策に使われていた言葉だが、エンタメ業界ではNetflixがオリジナル作品製作に巨額の資金を注ぎ込んできたことが引き金となり、現在ハリウッドおよび世界でコンテンツの囲い込みが激化している。

10月27日より日本でのサービスが拡大するディズニープラス

 ここ数ヶ月の間にも、スティーヴン・スピルバーグの製作会社アンブリン・パートナーズがNetflixと新作長編映画供給で合意し、配信作品をアカデミー賞受賞対象から外すよう訴えていたスピルバーグが翻意したと報道された。この合意はアンブリンとのものであり、御大の監督作を配信すると約束したわけではないが、長年のパートナーであるユニバーサル映画との契約も保持、そしてApple TV+との契約が映画に限ったものではないのに対し、Netflixとの新作長編映画供給契約は大きな動きと言える。Netflixに関していえば、2022年より複数年ソニー・ピクチャーズの劇場公開作品の米国内独占配信権を取得し、パンデミックで劇場が閉鎖されている中で『TENET テネット』(2020年)の劇場公開にこだわったクリストファー・ノーランとも交渉を続けているとの報道もある。『TENET テネット』を配給したワーナー・ブラザース映画は、2021年度中の劇場公開予定作全てを同社系列のHBO Maxでも公開と同時配信したことにより、ノーランをはじめとしたクリエイターから非難をあびていた。

 現在、ハリウッドの5大スタジオでストリーミングサービスを系列に持たないのはソニー・ピクチャーズのみ。ユニバーサルはPeacock、ディズニーはDisney+とHulu、ワーナーはHBO Max、パラマウントはParamount+と資本関係にある。ソニー・ピクチャーズのNetflixとの新作長編映画供給合意はストリーミングサービスへの進出を現時点では否定するもので、巨額のライセンス料を得ることを選択した。その一方で、ソニー・ピクチャーズ傘下のアニメに特化した配給・ストリーミング会社のファニメーション(SPEとソニー・ミュージックエンタテインメントの子会社アニプレックスとの合弁会社)は、アニメ専門ストリーミングサービスの最大手、クランチロールをHBO Maxの親会社であるAT&Tより11億7500万ドル(約1300億円)で買収している。クランチロールは、200以上の国と地域で500万人の有料会員と、1億2000万人の登録会員を持つサービス。クランチロールがAT&Tに買収される以前、2016年から2018年にはファニメーションと作品提供提携を結んでいた過去もあるので、元サヤに収まったと見ることもできる。だが、この買収によってソニーグループは、世界のアニメ市場を寡占化することが可能になる。その気になれば、現在はHBO Maxで配信されているクランチロールの作品や、NetflixやAmazon Prime Videoで配信されているファニメーションの作品を完全に引き上げ、自社ストリーミングサービスのみの提供とすることができるからだ。

 北米時間7月29日にロサンゼルス高等裁判所に提出されたスカーレット・ヨハンソンによるディズニー社に対する訴状は、彼女がタイトルロールを演じた『ブラック・ウィドウ』(2021年)の公開状況をめぐり、ディズニー傘下のマーベル・エンターテインメントとタレントの間の契約違反を促進したと訴えるもの。2019年にマーベルとヨハンソンの間で結ばれた出演契約では、出演料のほかに劇場独占公開期間中の全世界興行収入に基づいた歩合制の報酬が含まれていた。だが、パンデミックによりたび重なる公開延期とDisney+での同日プレミアム(追加料金)配信によって、報酬を得る機会が失われてしまった。また、映画の出演契約には公開前のプロモーション稼働も含まれ、同時配信となると、Disney+への加入促進を宣伝したことにもなりかねない。ストリーミングサービスの成功でディズニー社が得る利益、そして経営状況が好転し株価が上昇しても、ヨハンソンが利益配分を受け取ることはない。

 訴訟に対し、ディズニー社は非公開の仲裁調停を申し立てているが、ヨハンソン側は態度を軟化することなく、法廷で争う姿勢を貫いている。このことから推測できるのは、ディズニー社はIP(知的財産権)を囲い込むが、クリエイターやタレントに対する留意に欠けていたということ。ディズニーキャラクターをはじめ、マーベル、スター・ウォーズ、ピクサーといった世界屈指のIP保持が、コンテンツの王様が歩む道だと言わんばかりに。ディズニーが2019年に誕生させたDisney+は、サービス開始から1年半で世界に1億人の加入者を持つ巨大ストリーミングサービスに育っている。9月1日に発表された日本におけるDisney+の拡大戦略は、東南アジアでサービス提供していたSTARブランドを統合し、オリジナルだけでなくディズニー・テレビジョン作品から20世紀スタジオ、サーチライト・ピクチャーズ、FXなど旧FOX系の作品と、日本のローカルコンテンツまでも網羅する。ブランドを統合することによって、他のストリーミングサービスで配信されていた作品群も一挙に配信することが可能になる。

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