『SPY×FAMILY』が世界的に愛される理由 “未知”を知ろうとすることの大切さ

 しかし、『SPY×FAMILY』は子を持つ親にしか刺さらない、という作品ではない。そうでなければ、ここまで世界中の老若男女に親しまれるものになっていないからだ。本作ではロイドとヨルを通しても、“わからない相手”とのコミュニケーションが取り沙汰されている。例えば第9話では、弟が秘密警察だったことでロイドがヨルを警戒し、盗聴器を仕掛けて詮索する様子が描かれた。その様子は、まるで信用ならない恋人の携帯の中身を見ようとしたり、ストーキングして誰に会っているのか確認したりする彼氏のようだ。信頼関係というのは、たとえそれが恋人同士だとしても構築を怠ると綻んできてしまう。しかし、疑うことばかりではなく信じることから始まらなければ、そのリレーションシップを育むことさえ難しいということをロイドはこの回で学ぶ。これは子を持たずとも、恋愛関係にいた、またはかつて恋愛を経験したことがある人にとっては共感できるような内容だったのではないだろうか。

 もちろん、そういった信頼関係は恋人とだけ築くものではない。職場の同僚や、学校の友達ともコミュニケーションを日々とるものだ。特にアーニャは本作のコメディ部分を担う存在でありつつ、学校パートでは基本的に標的デズモンドの次男であるダミアンとのコミュニケーションを積極的に取ろうとする姿が印象的である。もちろん、それが父のミッションに不可欠であることへの自覚も理由のうちに含まれているが、殴ったことを頑張って謝ろうとしたり、邪険にされながらもめげずに話しかけたりするのだ。特にアーニャに関しては、この物語で皆が悩む「相手の気持ちがわからない」という壁を一人だけ突破しているキャラクターなのである。しかし、彼女を通して描かれる重要なテーマは、たとえ相手の気持ちが透けて見えたとしても、依然として人間関係を円滑で、完璧なものにすることは難しいということではないだろうか。

 星野源によるエンディング曲「喜劇」に、素敵な一節がある。

<あの日交わした 血に勝るもの 心たちの契約を>

 血の繋がりがない、全くの別人同士が結ばれて家族になろうとすること。結婚とは、そういうものだ。お互いを“未知なる存在”として生活を共にし、知り合っていく。それでも、完全に分かり合うことなんてない。それでも、分かり合えないからこそ、お互いについて日々新しい発見をしていく。子供が生まれれば、また“未知なる存在”が家族に加わるわけだ。常に相手を知らないものとして、知ろうとする努力。心で繋がろうとする努力。どんな関係性においても大切なその歩み寄りを、このユニークな偽装家族は教えてくれる。

■放送情報
『SPY×FAMILY』第2クール
10月放送予定
キャスト:江口拓也、種崎敦美、早見沙織ほか
原作:遠藤達哉(集英社『少年ジャンプ+』連載)
監督:古橋一浩
キャラクターデザイン:嶋田和晃
総作画監督:浅野恭司
助監督:片桐崇、高橋謙仁、原田孝宏
色彩設計:橋本賢
美術設定:谷内優穂、杉本智美、金平和茂
美術監督:永井一男、薄井久代
3DCG監督:今垣佳奈
撮影監督:伏原あかね
副撮影監督:佐久間悠也
編集:齋藤朱里
音響監督:はたしょう二
音響効果:出雲範子
音楽プロデュース:(K)NoW_NAME
制作:WIT STUDIO×CloverWorks
(c)遠藤達哉/集英社・SPY×FAMILY製作委員会
公式サイト:http://spy-family.net/
公式Twitter:https://twitter.com/spyfamily_anime

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アニメシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる