『スーパーヒーロー』は“ドラゴンボール映画”として満点 だからこそ期待したい次作の挑戦

映画『ドラゴンボール』に期待するもの

 6月11日に『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』が公開され、スマッシュヒットを記録している。子どもから大人まで夢中になれるタイトルとして、すでに鑑賞した方もいるだろう。今作では映像面ではCGアニメに挑戦するなど、多くの変化を迎えている。今回は挑戦したことの結果と課題について述べていきたい。

 今作の映像的に注目したいポイントは「CGアニメ」と「アクション作画」の2点だ。

映画『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』公開後PV

 まずはCGについて。世界的な状況を見渡すと、近年公開された世界のアニメーション映画は、CGで制作された作品が多い。ディズニーやピクサーをはじめとしたアメリカの作品や、あるいは中国も年々CG表現の発展が目覚ましい国として名前があがるだろう。日本が得意とする手書きアニメ、ヨーロッパアニメーションなど制作されてはいるものの、CGが世界的な主流となっている状況が続いている。

 その中でも先に挙げたアメリカ、そして中国のCGアニメーションの表現のレベルが高い。例えばアメリカの作品では、水や自然の表現は、もはや実写と見分けがつかないほど精緻であり、さらに美しさが印象に残る。中国の作品はアメリカと比較すると、映像表現そのものは粗さがあるとしても、キャラクターに躍動感があり、アニメーションの持つけれん味に満ちた快楽性も備えている。

 予算や人員規模の問題もあり、もはや日本はCG表現では、この二国に永遠に辿り着けないのではないかと思わせるほど差が生まれている。もっとも、日本は手書きも含めたアニメ作品の質量が共に高く、世界的にみてもこれだけアニメ作品を量産できる国はアメリカ、中国、日本くらいしかない。CG表現だけを見て、日本アニメを卑下するのも、極端な見方だと述べておきたい。

 日本ではフォトリアルCGとセルルックCGの2つの路線が登場している。フォトリアルCGは『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』(2016年)のように、人物や世界の描写が現実と見分けがつかないほど作り込まれたCG表現。セルルックCGは今作のように、漫画や日本アニメが手書きで表現してきたセル画のような雰囲気を、CGで描き出す試みのことだ。

 今作のCG表現に関しては、現時点で日本のセルルックCGアニメ作品として最高峰の1つといっていいだろう。鳥山明の原作の持つキャラクターデザインを活かし、手書きアニメに見慣れた往年のファンも、違和感を抱きづらいキャラクターデザインとなっている。

 また世界標準となりつつあるCGで表現することにより、より世界展開が広がる可能性も示した。作中ではオノマトペが英語で表記されるなど、どこかアメコミを感じさせる表現となっていた。日本の漫画の象徴的存在とも言える『ドラゴンボール』と、アメコミ風の英語表記のオノマトペは相性が良く、より国際色が宿る。前作『ドラゴンボール超 ブロリー』が世界興行収入1億ドルを突破したことを背に受けて、日本が誇る世界的タイトルを、さらに育てる気概を感じ取れた。

 もちろん、漫画やアニメのようなルックスを目指したCG表現は、日本だけが試みたわけではない。近年ではアメリカでフィル・ロード&クリストファー・ミラーが積極的に挑戦しており、アメコミや日本の漫画の要素も取り入れた『スパイダーマン:スパイダーバース』が思い浮かぶだろう。その中で『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』のCG表現が発揮した強み。それこそが「アクション作画」にほかならない。

 『ドラゴンボール』シリーズの映画作品の目玉は、なんといってもアクション作画だ。原作が連載され、テレビアニメが放送されていた90年代頃の作品を観ても、当時の最先端であるアクション作画が楽しめる作品となっている。それは今の時代にも引き継がれており、『ドラゴンボール超 ブロリー』の手書き作画で表現されたアクション表現は、まさにスクリーン映えする大迫力のバトルが展開されていた。

 そして今作ではCGアニメ化ということもあり、その出来栄えが気になる部分もあったものの、満足感の強い作品となっていた。特に孫悟飯が覚醒し、気が周囲に溢れ出す様子であったり、あるいは技を繰り出した時の爆発表現などのエフェクトに迫力があり、よりバトルを力強く印象づけることに成功した。単純に高速なだけでなく、技の威力に説得力を持たせることもでき、強力な技の応酬を繰り返すだけでなく、太陽拳などの搦め手を含めるなど、様々な試みを果たしている。

 これだけのCG表現とアクション作画が堪能できれば、シリーズのファンは満足度が高いだろう。それだけに難しさを感じたのが物語の作り方だ。今作では鳥山明が脚本も担当しており、まさにドラゴンボールらしさを感じさせるものになっていた。ピッコロの巨大化など、子どもの頃に作品を親しんだファンであっても、忘れていそうな設定を掘り起こし、悟飯が最後にセルマックスに決めた必殺技などは、まさにファンが観たかった光景そのものだ。

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