渡辺直美主演ミュージカル『ヘアスプレー』が復活 映画版で60年代ファッションを予習!
映画全体では、白人女性は全体的にソフトで甘いパステルカラー、黒人女性はオレンジやブルーなどのビビッドカラーや、大きい花柄のドレスなどで印象を分けている。トレイシーのダンスの師匠でシーウィードの母親、“モーターマウス”メイベル・スタッブスを演じるクイーン・ラティファだけは、ド派手なアニマルプリントやゴールド×赤のドレスなど、治外法権でゴージャス。ジョン・トラボルタ演じるトレイシーのママ・エドナとトレイシーがお揃いで着こなす、ド迫力のザ・60年代デザインのピンクのスパンコールワンピースも華やかで可愛い。
そして物語の後半、あることをしたせいで警察に追われていたトレイシーが、“ミス・ヘアスプレーコンテスト”に登場した時に着ているのは、黒×白のスパンコールが市松模様風に並んだ、ウエストマークのないシフトドレス。しかも白エナメルブーツ付き。これぞ60年代のフューチャリズムファッション。その衣装でトレイシーが登場することで、新しい時代、価値観の到来をルックスでも表現していると言える。
1950年代頃までの一般的なアメリカ人女性のファッショントレンドは、あくまで女らしいコンサバティブなスタイルだった。徐々にスカート丈が短くなってはきていたが、全身で見るとまだ露出は少ない。それが1960年代の途中から一気に、膝上丈のミニスカートやウエストをマークしないシフトドレス、ベルボトム型のパンツなど、それまでになかったデザインが登場し、70年代のヒッピースタイルへとつながっていく。
トレイシーたちは、女性のファッションの選択肢が増えていく過程のど真ん中にいるのだ。そして自分らしいファッションを楽しむことは、自分らしさを表現するための大切なひとつの方法だと教えてくれる。
そもそも『ヘアスプレー』の始まりは、1988年にジョン・ウォーターズという鬼才監督が製作した映画だった。その映画を元に2002年にはミュージカルが制作され、ブロードウェイで公演、トニー賞8部門受賞という大ヒット作品となる。そして2007年、今度はミュージカル版を元に再び映画化され、主演のニッキー・ブロンスキーのパワフルな可愛らしさと、女装のジョン・トラボルタという飛び道具的な配役で(とてもキュート)、こちらも世界中で大ヒットした。基本的には前向きで明るいストーリーなのだが、同時に、現代と比べるとにわかには信じがたいくらいあからさまな差別が言葉でハッキリと表現される。2022年の現在にもいまだ続いている問題がメインテーマなのだ。
偏見と差別意識に満ち満ちた世界でトレイシーは、腐らず卑下せず身近な人たちを巻き込みながら、自分らしく生きることで周りの方を変えていく。渡辺直美の舞台版と併せて、今改めて観たいテーマの作品だ。