『ちむどんどん』が教えてくれた自己批判の大事さ “全員”の物語を描く高度な挑戦
“朝ドラ”ことNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』。第11週「ポークとたまごと男と女」の第54回放送日・6月23日は沖縄慰霊の日だった。「エンド5秒」と呼ばれる本編が終わったあと5秒間の視聴者参加のコーナーでは沖縄出身の仲間由紀恵と黒島結菜が「6月23日は慰霊の日」としてひめゆりの塔の前に神妙な顔つきで立った写真を映した。
第11週、シェフ代行をすることになった暢子(黒島結菜)に突きつけられた課題は「ありがとう」と「ごめんなさい」を言うこと。この「ありがとう」「ごめんなさい」は子供時代、暢子の長所だった。ところがシェフ代行という思いがけない重責にテンパってその大事な心がけを忘れ、同僚とギクシャクしてしまうのだ。暢子の本来の長所を取り戻すことができるのかーー。
暢子が大事な本質を失ったきっかけは兄・賢秀(竜星涼)である。彼が暢子に他者からなめられないように何があっても謝らないし礼も言わないという、いわゆる喧嘩の流儀を教えたのだ。「ありがとう」と「ごめんなさい」が沖縄への想いの現れの暗喩ではないかという声をSNSで見た。なるほどそういう見方もあるだろう。喧嘩上等精神で世界から戦争がなくならないとしたらたまったものではない。
我々に必要なのは「自己批判」の心である。客観的に事態を見て適切に謝ったり、お礼を言ったりすることが肝要だ。おりしも、和彦(宮沢氷魚)は東洋新聞に掲載された「お母さんの味」という広告に、料理を作るのはお母さん(女性)のみではないという意見に寄り添った記事を書こうとして編集局長や広告部に止められる。巨額の広告費を払っているスポンサーを批判することが許されないサラリーマンとして生きるか、ジャーナリストとして生きるか。天秤にかけたとき和彦は辞表を出そうとする……。
結果は、房子(原田美枝子)の提案で匿名の投書を田良島(山中崇)が仕掛け、批評記事を出すことができて、社内からも「自己批判」が大事という称賛の声をもらって事なきを得た。
新聞は世の中の様々な出来事をできるだけ客観的な立場から報道するものとはいえ、新聞社によって個性があり立ち位置は各媒体で若干違う。それによって国民の様々な視点に応えているわけだが、東洋新聞のように広告主の意向に沿って、異なる考えを伝えないような事態があるとしたら信用度は薄まるだろう。
東洋新聞に匿名の投書が。
状況は一変し、和彦の記事を載せられることに!田良島のはからい、見事でしたね😌#ちむどんどん #朝ドラ#宮沢氷魚 #山中崇 #飯豊まりえ pic.twitter.com/g9UFFQUWTS
— 連続テレビ小説「ちむどんどん」 (@asadora_nhk) June 24, 2022
ただただ真っ直ぐな気持ちを貫いた和彦の姿勢はまぶしいほどである。そこで気になるのが田良島である。彼のおかげで和彦は信念を貫くことができたのだ。学芸部という新聞社では決して花形とはいえない部署のデスクをしている田良島。教養は十分高そうだし、長いものに巻かれろ的でもなく反骨心を失っていないようだし、部下たちを育てる力もあるように見える。でも田良島のジャーナリストとしての活躍は描かれていない。彼は何がしたくて新聞社にいるのだろうか。第55話で「自分を認めていない」という発言があった。斜に構えただけかもしれないし、いまの自分を良しとしていないのかもしれない。だから真っ直ぐな和彦を応援したいのではないかと想像する。