春ドラマに足りなかったものがここに? ドラマづくりの楽しさが伝わった『義経のスマホ』

『義経のスマホ』にみたドラマづくりの楽しさ

 そろそろ4月クールの連続ドラマも完結。どのドラマも作りは堅実なのだが、突き抜けた面白いものが少なかった中、深夜に放送された“武士のスマホ”最新作『義経のスマホ』(6月10日24時25分より再放送)は相変わらず痛快だった。『光秀のスマホ』『土方のスマホ』と続いてきて今回で3作目。NHKが大河ドラマと連動して放送してきたミニドラマで、舞台は戦国時代や幕末なのになぜか当然のようにスマートフォンが存在し、主人公の武士たちは常にスマホを手に持っている。そして、主にスマホのカメラによる動画撮影やメッセージアプリなどの画面内で本能寺の変や池田屋事変といった歴史的大事件を描くという、ふざけているのか真面目なのかよく分からないシリーズだ。

 そもそも「この時代にスマホがあるわけない」と突っ込まれたら反論できない企画。しかし、ネット文化を巧みに取り込み、パロディと“ネットあるある”で独特のリアリティを構築していく。『義経のスマホ』ではTikTokのようなアプリ「TengTok」があったり、Vチューバーの美少女・天狗ゲタ子がお悩み相談で人気だったり、Twitterには「義経はんぱないbot」というアカウントがあったり……。ザ・ファースト・テイクならぬ「ザ・ファースト・イマヨウ」に後白河法皇が出てきて今様を歌った場面には爆笑した。また、秀逸だったのは、西村ひろゆきのモノマネで知られるガリベンズ矢野が大江広元(『鎌倉殿の13人』では栗原英雄が演じている)として登場し、ひろゆきのYouTube配信のように「源頼朝は勝てない? それってあなたの感想ですよね?」と言ってのけたくだり。そんな小ネタで2022年のネットカルチャーと900年前の中世を結びつけてしまう力技には脱帽する。

 また、とんでも設定のSF時代劇なのに、果敢に新たな歴史的解釈をするのもこのシリーズの特徴。『光秀のスマホ』では本能寺の変を起こさせた真の黒幕が意外な人物だったが、『義経のスマホ』では義経がスマホを通してしか他人と話し合えないコミュ障に。“ひろもと”やゲタ子の影響をモロに受け、承認欲求をこじらせていくという設定はありえないけれど、後に義経が孤立してたどった運命から考えると、妙にリアルだ。一方、兄の頼朝は“意識高い系”の起業家気質で、「イノベーションを起こしたい」とメッセージを発信して周囲の坂東武者たちを感化させていく。頼朝が北条義時ら御家人たちとメッセージアプリの「サロン源」でやり取りし、同意を表す「アグリー」のスタンプが盛んに押されるさまは、オンラインサロンの危うさを批判的に描いているのか。ちなみに義経もそのサロンに参加していたが、兄からリマインドされた平家追討プロジェクトの最重要タスクを見逃したために、用なしとされ、兄から切り捨てられる。その成り行きは現在、問題になっているキャンセルカルチャーそのものだ。

 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合)ではカットされた義経レジェンドも満載。鞍馬寺で修行していたという幼少時代、奥州平泉で過ごした思春期、屋島の戦いでの那須与一が扇を射る場面、そして、義経が兄と決裂し弁慶に伴われて奥州へと逃走する途中、安宅の関で起こった「勧進帳」の一幕まで、史実かどうかは分からないが有名なエピソードがこれでもかと盛り込まれている。『鎌倉殿の13人』は安宅の関を描かず、平泉にたどり着いた義経が山伏のような格好をしているさまだけ映すなど、史実から大きく外れないようにしているだけに、こちらは大河ドラマのよくできた二次創作(公認)のようでもある。

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