春ドラマに足りなかったものがここに? ドラマづくりの楽しさが伝わった『義経のスマホ』

『義経のスマホ』にみたドラマづくりの楽しさ

 つまり、日本独自のネットコンテンツをパロディし日本の歴史の仮説を描いているので、完全に国内向け。もし、海外で配信されたとしても面白さの半分も伝わらないだろう。民放のドラマの多くがターゲットとしているファミリー層に幅広くウケることを目指したものでもない。だが、そうして「分かるやつだけが分かればいい」とばかりに、マニアックでニッチな視聴者層に向けていく潔さこそが、痛快なのだ。

 中央にスマホの縦型液晶画面が固定され、その背景で歴史上の人物があたふたするという映像には原案があり、札幌国際短編映画祭でNHK賞を受賞したマーティン・ウィンクラー監督の『#tagged』(#タグづけされた世界)がクレジットされている。その短編映画が描いたように、今の若い世代の人にとってはスマホの中で起こっていることこそが現実で、人間関係の悲喜劇もほとんどがスマホの中で起こる。そして、海の向こうの戦争すらスマホのカメラで中継され報告されているように、敗者を主人公とするこのシリーズの結末は戦場ドキュメンタリーのようになり、毎回、見終わった後はしんみりしてしまう。

 第1作『光秀のスマホ』が話題となり、第47回放送文化基金賞奨励賞を受賞したとき、NHKの田中涼太ディレクターは「素晴らしいアイディアとワザを持った局内外のプロが集い、みんなで“ニヤニヤしながら”挑みました」と語っていた(※)。ここにドラマを面白くする根本的なヒントがあるのではないか。現在、NHKが進めているように、外部から才能あるクリエイターを引っ張ってくること。そして、作り手が本気で面白いと思う内容を作ること。現在のドラマの多くにはこの「面白がること」が欠けているように見える。もちろん、面白いと思ったことを面白く伝えるにはセンスと客観性が必要なのだが、脚本の竹村武司をはじめとするこのチームにはそれらが備わっている。ぜひ、最近のドラマは面白くないと感じている人に観てほしい。

参照

※ https://www.hbf.or.jp/awards/article/47_ent

■放送情報
『義経のスマホ』全話一挙再放送
NHK総合にて、6月11日(土)00:25〜01:05(10日深夜)放送
(c)NHK

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