アヴちゃんの声に魅了されること間違いなし 映画館でこそ真価を発揮する『犬王』
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、若い頃に知らず知らずのうちに「幽玄」を体現してしまった石井が『犬王』をプッシュします。
『犬王』
『犬王』、まずタイトルがいいですね。「〜王」というタイトルの作品は数多くありますが、みんな大好き(?)な「犬」という漢字に王という強い1字を組み合わせるギャップ。ありそうでなかった造語だなと思っていたら、まさかの歴史上に実在した人物の名前だったから驚きです。この犬王さん、何をした人かといえば、1400年頃の室町時代に猿楽能の名手として活躍していたとのこと。「能」といえば、世阿弥・観阿弥親子のイメージしかなかったこともあり、当たり前ではあるのですが、彼らのほかに能(当時は猿楽)におけるスターがいたことに驚きがありました。しかも、犬王は彼らのライバルであり、まったく違う華やかさがあったとか。本作は、そんな経歴だけみても格好いい人物を、監督・湯浅政明、脚本・野木亜紀子、キャラクター原案・松本大洋、音楽・大友良英という“濃すぎる”才人たちのセッションによって生み出された一作となります。
スタッフ、および声優陣を眺めただけでも面白くないわけがないとは思っていましたが、予想の斜め上を越えていった作品でした。事前のあらすじなどの情報と観た後の印象のギャップは湯浅作品の定番とも言えるのですが、そのどれにも増して今回はすごかったです。
試写で事前に観ていたライターさんは「『ボヘミアン・ラプソディ』みたい」というコメントをしていました。「一度は挫折を経験した主人公が復活を遂げる話なのかな」と構造的な意味での例えかと思いきや、観てみたらこれが比喩でもなんでもなく、思っていた以上に『ボヘミアン・ラプソディ』。舞台は室町時代、しかもアニメーション作品で、疑似「We Will Rock You」を体験することになるとは思ってもよらずです。
そんなアニメーション映画、というよりも、紛れもない音楽映画である本作を牽引していたのが、犬王役を演じた女王蜂のアヴちゃん。恥ずかしながら、本作に触れるまで、名前を聞いたことはあっても、女王蜂の音楽をちゃんと聴いたことがなく、アヴちゃんの歌声も本作で初めて知りました。もう、たまげたの一言。犬王の切なさと格好良さ、そして神々しさ、すべてを持ち合わせています。犬王の“パートナー”となる琵琶法師・友魚を演じる森山未來がすごいのはいつもどおりなのですが(事前に知らなければ森山未來と気づかない人もいるぐらいの憑依ぶり)、彼が引き立て役に感じてしまうほど、アヴちゃんの輝きは凄いです。本作を観終わった後、すぐにYouTubeで女王蜂を検索しました。