『明日』が描くパワハラ・セクハラへの苦悩 社会の生きづらさを経験した者に刺さる内容に

視聴者が『明日』に感情移入できる理由

 死神たちが働くあの世の大企業「走馬灯」では、社内のシステムがウイルスに感染し混乱状態に。自殺志願者のネガティブ度が表示される“レッドライトアプリ”も不具合を起こし、自殺を食い止める危機管理チームにも影響が出る。解散危機に迫られ、次の失敗は許されないチーム長のク・リョン(キム・ヒソン)は、“危機を機会に変えられるか”が試された。

 本作に登場するのは死神なのだが、現実離れしていないのは「走馬灯」のシステムがこの世の企業と何ら変わりない設定だからだろう。数千倍の競争率を勝ち抜いた死神たちがそれぞれの部署で働き、人事評価があり出世を目指す者もいる。リョンとイム・リュング(ユン・ジオン)代理が、新人のチェ・ジュヌン(ロウン)を育てて(?)いるのも組織の中では見慣れた風景だ。

 さて、危機管理チームの3人は「化粧品会社」、「4月生まれ」のワードをもとに自殺志願者を特定するため、アルバイトとして化粧品会社に潜入する。そこで目に入ってきたのは、口を開く度にパワハラ・セクハラ発言をする上司と働く社員たち。さらには見た目をいじられる社員、格差に悩む契約社員、いつも謝ってばかりで申し訳なさそうなワーキングマザーの姿だ。新社会人のジュヌンがふと呟いた「会社員って大変だな」の一言がやけに胸に刺さる。

 私たちがこの息の詰まる光景を他人事とは思えないのは、本作で描かれる社会の生きづらさを感じた経験があるからだ。誰もが自分を追い詰める可能性を秘めているのだと思い知らされる。そして、周りが羨むような人が自ら命を断とうとしていることも。

 よくも悪くも多くの人に評価される世の中で、心ない言葉の数々が本人に直接届くようになってしまった。人の視線から永遠に逃れられなければ、自分が誰のために、何のために生きているのかさえわからなくなってしまう。

 だからこそ共感や応援の一言は、今を乗り越え明日という日に繋いでくれるのだろう。ワーキングマザーに「あなたはよくやってる」「ママはカッコいい」という言葉が、周りの目が怖くなって部屋に籠ってしまった娘には「人生はあなたのもの」「自分くらいは自分を愛してあげなきゃ」と母の言葉が送られる。自分で自分を抱きしめてあげられたら、きっと隣にいる人も抱きしめることができるはずだから。言葉をかけられなくても、話を聞くことが何よりの慰労になることもあるのだから。

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