『ファンタビ』最新作が北米興収1位も危機的状況? 「魔法ワールド」史上最低の滑り出しに

『ファンタビ』最新作が北米1位も危機的状況

 先週、『モービウス』『ソニック・ザ・ムービー』『ファンタスティック・ビースト』という話題作ラッシュによって、それぞれの作品がどんどん消費されてしまうのではないかという懸念を記した(参照:『ソニック・ザ・ムービー』続編、北米で前作超え大ヒット 大作が急速に消費される不安も)。今週の結論から言えば、その予想は外れたと考えられるわけだが、むしろここにはそれ以上に深刻な状況が横たわっているようにも思われる。

 4月15日~17日の北米興行収入ランキングでNo.1の座に輝いたのは、おなじみ『ファンタビ』シリーズの最新作『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』。海外市場での快調ぶりを受け、北米でも大ヒットが期待されていたが、3日間の興行収入は4,300万ドル。『ハリー・ポッター』『ファンタスティック・ビースト』シリーズからなる「魔法ワールド」作品としては史上最低の滑り出しとなった。

 この数字の厳しさは、先週の首位だった『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』が3日間で7,100万ドル、先々週の首位だった『モービウス』が3日間で3,910万ドルを稼いでいたことを踏まえても明らかだろう。世界的に愛される『ハリー・ポッター』フランチャイズの最新作が、同じくファミリー層をターゲットとした『ソニック』相手に大敗を喫し、映画ファンの知名度が低いマーベルのヴィランをホラー/スリラー路線で映画化した『モービウス』と接戦を争うような結果となったのだ。

ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密

 なぜこのような結果となったのか? 理由を推測すれば枚挙にいとまがない。そもそも『ハリー・ポッター』フランチャイズの求心力が年月を経て衰えつつある可能性、前作『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』(2018年)の不評、原作・脚本を務めるJ・K・ローリングの炎上問題、出演者であるジョニー・デップやエズラ・ミラーのスキャンダル(デップは降板し、後任にはマッツ・ミケルセンが起用された)。致命的な大打撃はなかったのかもしれないが、作品やブランドのイメージを損なう出来事が続いたことは確かだ。

 また私見ながら、従来の『ハリー・ポッター』『ファンタスティック・ビースト』シリーズの魅力は、よく知っている魔法の世界に触れるという“安心感”によるところが大きい。『ファンタビ』はそれが売りであるからこそ、『ハリー・ポッター』の前日譚的性質が強く、シリーズ同士のリンクを押し出しているのだろう。しかし最近のトレンドでは、安心感よりもむしろサプライズを売りにする作品がヒットする傾向にある。ほとんどの映画が数カ月以内に配信され、自宅ですぐに観られることが明らかとなったコロナ禍以降の現在、大ヒットの鍵は、ファンや観客に「どうしても映画館で観たい」と思わせることだ。本作はその点でもややアピールに欠けたところがあったのではないか。

 シリーズにとって最大の懸念は、以前からの構想である5部作計画を最後まで全うできるかどうかだ。次回作の脚本がまだ執筆されておらず、魔法ワールドそのものの今後も未知数である今、本作がシリーズ史上最低のスタートとなったことは痛手だと言わざるをえない。しかも折り悪く、ワーナー・ブラザースを擁するワーナーメディアはAT&Tから切り離され、ディスカバリーとの事業統合を完了したばかり。新企業のワーナー・ブラザース・ディスカバリーが今後は魔法ワールドにも経営的判断を下していくわけだが、新たな経営陣は現状をどう捉えることになるだろうか。

 もっとも、滑り出しこそ成功とは言えないが、『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』の北米興収1億ドル超えは固いとみられている。また、すでに海外興収は1億5,000万ドルを突破し、世界累計興収は2億ドルに迫っている状況だ。製作費2億ドル+巨額の宣伝費が投じられた一作とあって、巨額のコストをどこまで回収できるかがビジネス的には肝となるだろう。

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