中島健人×永山絢斗、2人の“ケント”の好演光る 『桜のような僕の恋人』が描く特別な時間

 そうした中でひときわ目を引いたのは、晴人役の中島健人とヒロインの兄・貴司役を演じた永山絢斗、2人の“ケント”の好演である。中島の場合、これまで出演してきた映画やドラマにおいてはかなり両極端な役柄が多く、完全に頼りない三枚目キャラか、中島のアイドルとしてのパブリックイメージに即した隙のないキャラクターのどちらかということが多かった。その後者で始まり徐々に年相応の空気をただよわせていった2021年夏の『彼女はキレイだった』(カンテレ・フジテレビ系)に逆方向からアプローチするように、本作では頼りなさげな方から入り、夢を実現していくという青春映画のシンプルな方法論をもって成長していく25歳の青年への変化を非常に巧く体現していたように思える。

 また無骨で不器用に、ただ妹思いな兄を演じた永山は、ユーモラスな立ち位置から物語の感動を増幅させる役割を担うあたり、実に理想的な助演キャラクターである。終盤この2人の“ケント”が向き合う二つのシーン、晴人の仕事現場に貴司が訪れ美咲のことを告げるシーンと、襖越しに美咲と対面したのち貴司の仕事現場である小さな居酒屋で振り返った晴人がささやかな笑顔を向けるシーン。ここでもまた、対比構造の妙味が効果的に機能しているではないか。そして何より、妹が難病であることを知った貴司が治療法はないかと模索し、詐欺まがいの民間療法に大金を注ぎ込んでしまうくだりは、患者家族が抱く無力さと迷いを描写した、最も現実的でつらい描写であった。

 雪は溶けて消えて無くなるし、花火も一瞬輝いたのちにわずかな火薬のにおいだけを残して消えてしまう。けれども桜の花は一度散っても、また春が来るたびに繰り返し咲き誇る。1年という時間の持つ長さと短さ、そして重さ。この映画が見せる“時間”への感覚は、コロナ禍を経験したいまではどこか特別なもののように感じてならない。しかもエンディングでMr.Childrenが流れることで、その特別さはさらに盤石なものとなるのだ。

■配信情報
『桜のような僕の恋人』
Netflixにて配信中
出演:中島健人、松本穂香、永山絢斗、桜井ユキ、柳俊太郎(「柳」は旧字体が正式表記)、若月佑美、要潤、眞島秀和、モロ師岡、及川光博
原作:宇山佳佑『桜のような僕の恋人』(集英社文庫刊)
監督:深川栄洋
脚本:吉田智子
主題歌:Mr.Children「永遠」(TOY’S FACTORY)
エグゼクティブ・プロデューサー:高橋信一(Netflix)
プロデューサー:春名慶(博報堂DYミュージック&ピクチャーズ)、川田尚広(TOHOスタジオ株式会社)
制作会社:TOHOスタジオ株式会社
企画・制作:Netflix
Netflix作品ページ:https://www.netflix.com/桜のような僕の恋人

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