『カムカムエヴリバディ』“父”たちの人生の歩み 金太、平助、錠一郎、稔が繋いだバトン

『カムカム』“父親”たちの人生の歩み

 まもなくエンディングを迎える『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)は、祖母から孫にかけての三世代のヒロインによる100年のファミリーストーリー。物語の中心にいるのは、安子(上白石萌音)、るい(深津絵里)、ひなた(川栄李奈)という女性たちだ。彼女たちは時代に翻弄されつつも、自分の人生を切り開き、次の世代へとバトンをつないできた。

 公式サイトには「これは、すべての『私』の物語」という言葉が添えられていた。主人公たちだけではなく、まわりの人たちすべてに血が通っていて、それぞれの人生の物語がある。そう思わせてくれるドラマだからこそ、いつも奥行きと深みが感じられて面白いのだろう。

 では、彼女たちの“父親”たちはどのような人生を歩み、どのような物語があったのだろうか? 筆者自身が娘を持つ父親だからか、気にしながら見続けてきた。あらためて振り返ってみたい。

 安子の父・金太(甲本雅裕)は岡山にある「御菓子司たちばな」の二代目。安子の祖父・杵太郎(大和田伸也)に厳しく育てられ、腕の確かな職人として跡を継いだ。「おいしゅうなれ、おいしゅうなれ、おいしゅうなれ」と小豆に呼びかける「あんこのおまじない」は杵太郎から金太が受け継いだもの。

 家族や職人たちに囲まれて幸せな暮らしを送っていた金太だが、長男の算太(濱田岳)との関係はうまくいかなかった。借金が原因で勘当すると、出征の見送りも拒否してしまう。さらに岡山大空襲で妻の小しず(西田尚美)と母のひさ(鷲尾真知子)を亡くし、強い自責の念にとらわれた金太は生きる気力を失ってしまう。やがて安子の支えによって立ち直った金太は、おはぎに宿る人を幸せにする力を信じて焼け跡でおはぎ作りを再開。安子にあんこの炊き方を教えながら「たちばな」の立て直しを図るが、算太の帰還と家族の団らんを幻視して息を引き取る。どちらも彼が戦争で失ってしまったものだった。

 金太は戦争で多くの大切なものを失った人の代表のように描かれていた。焼け跡での金太の慟哭には、どうにもならない人の悲しみが凝縮されていたように思う。それでも、金太は「たちばな」のあんこの味と「あんこのおまじない」を遺すことができた。「あんこのおまじない」は他人を思う気持ちを表すもの。金太の思いは、安子や算太を通じてあんこの味とともに多くの人に伝わっている。

 るいは戦争のせいで父・稔(松村北斗)と会ったことがない。その代わり大阪で本当の父と母のような竹村平助(村田雄浩)と和子(濱田マリ)と出会っている。竹村夫妻は、朗らかで、おおらかで、優しくて、なにより人の痛みがわかる夫婦だった。るいが抱える過去と現在の悲しみを察知すると、無遠慮に踏み込むような真似はせずにそっと見守り続けている。きっと彼らもたくさんの苦しみを乗り越えてきたのだろう。戦争も、子どもが授からなかったことも大きかったはずだ。

 るいに求婚した錠一郎(オダギリジョー)に、平助が大きな体を折り曲げて「娘をよろしゅう頼みます」と頭を下げる場面は、まるで本当の父親のようだった。はっきりと「娘」と言った平助と隣で頭を下げる和子に向かって、るいも自然に三つ指をついていた。家庭のあたたかみを知らず、家族を持つことを恐れていたるいにとって、竹村夫妻との出会いは人生の幸運とでも言うべき出会いだった。と同時に、竹村夫妻にとっても、るいと過ごした満ち足りた日々は最高の贈り物だったことは、いつか思い出話ができれば幸せだと語った和子の言葉からもわかる。血縁のない3人はとてもあたたかで優しい家族となり、そこで培われた優しさは、るいによって大月家に伝えられた。

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