『カムカムエヴリバディ』“父”たちの人生の歩み 金太、平助、錠一郎、稔が繋いだバトン
るいと同じように、血縁のない父代わりの柳沢定一(世良公則)から優しさを与えられていたのが、ひなたの父・錠一郎だ。『椿三十郎』のリアリズムより『棗黍之丞』のファンタジーを愛する錠一郎は、商店街の人たちに心配されるほど浮世離れしたまったく生活力のない父親だが、いつもひなたと弟・桃太郎(青木柚)姉弟に寄り添い続けた。ひなたが映画村に行きたいと言えば連れていき、「ミス条映コンテスト」に出たいと言えば応援した。けっして威張らず、強がったりもせず、自分の弱い部分を見せながら子どもたちに接してきた。まるで「月」のように自分の道を探そうとする子どもたちを照らし続けた。
トランペット奏者として生きる道を失い、絶望し、苦しみ抜いた錠一郎だったが、るいと家族を得た。自分の過去を子どもたちに打ち明けた錠一郎は、「ひなたと桃太郎の、いいお父ちゃんとして生きられたら、それでええ。それで僕は幸せや」といつもの調子で言い、とても大切なことを伝える。「それでも人生は続いていく。そういうことや」。深い絶望があっても、人は何度でも生き直すことができるし、ひなたの道を歩くことができるようになる。
金太も、平助も、錠一郎も、大切なものを失い、苦しんだ経験から得た大切な教えを、優しさを、生き方を、バトンとして後の世代に伝えていた。父親として子どもたちと接することができなかった稔も、「On the Sunny Side of the Street」という曲と「るい」という名前をバトンにして夢を託している。るいの横に立った稔は、そのバトンがしっかり受け取られていたのを確認できたようだ。
ほかにも雉真千吉(段田安則)と勇(村上虹郎)、赤螺吉兵衛(堀部圭亮)と吉右衛門(堀部圭亮)、吉右衛門と吉之丞(徳永ゆうき)、初代桃山剣之介(尾上菊之助)と二代目剣之介(尾上菊之助)、柳沢定一と健一(前野朋哉)など、母と娘の物語の傍らで、さまざまな父と子の物語が重ねて語られていた。むりやりこじつければ、平川唯一(さだまさし)とラジオを通じた「カムカムの赤ちゃん」たちも父と子なのかもしれない。女性だけでなく、男性もバトンの担い手だった。やっぱり『カムカムエヴリバディ』は、「すべての『私』の物語」なのだ。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか
写真提供=NHK